2017 Fiscal Year Research-status Report
ウェルネス社会を築く地域医療情報ネットワークの効率性及び経済効果の実証研究
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17K03741
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Research Institution | Kobe International University |
Principal Investigator |
辻 正次 神戸国際大学, 経済学部, 教授 (90029918)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井戸田 博樹 近畿大学, 経済学部, 教授 (10352957)
植木 靖 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 研究企画部, 海外研究員 (40450522)
小川 賢 神戸学院大学, 経営学部, 准教授 (70373115)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 医療情報システム / ビッグデータ / HER / PHR / AI / 重症化防止 / ポピュレーションアプローチ / レセプトデータ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、医療・介護・健康・福祉面での地域課題を、ICTを活用して解決し、健康で活力にあふれるウェルネス地域社会を構築するための政策的基盤を確立することにある。そのために、医療・健康に関するビッグデータを構築し、このデータを医療機関や住民と共有・活用し、(ア)生活習慣病の予防、(イ)疾病の重症化の防止、(ウ)二重投薬・検査の防止、(エ)医療機関での医療サービス供給の効率化、これらの実現を目指すものである。医療・健康ビッグデータ蓄積の例として、例えば、米国、New York市にあるHealthixは、市内の約500の医療機関と連携して、診断、検査、投薬等の医療データを、リアルタイムで共有する情報システムを構築し、現在1800万人のデータを蓄積、患者の医療情報の時系列上の推移を用いて、継続的な治療・観察に貢献するものの一つがビッグデータによるリスク管理、Population Risk Management、登録される患者数が増加すると、蓄積される各種の医療データも分析することで、上記の目的が実現される。 一方、日本の現行制度では医療・健康ビッグデータを蓄積することは極めて困難である。その理由の一つは、医療情報システム統合のための費用負担が大きいことにある。住民のすべて医療・健康データにアクセスできるようするには、新しいシステムの構築、それに伴う制度改正、予算処置等多くの課題がある。この実現には、Data Health計画のような既存のネットワークの統合(あるいはカップリング)も必要である。また、具体的な工程表の作成も必要とされる。米国NYのHealthixでは、オバマケアの一環として、連符政府、州政府の補助金が用いられていて、医療機関の負担はない。これがシステムをうまく機能させている要因の一つである。本研究の目的はこれらの課題を解決する制度的枠組みを構築することである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで医療ビッグデータ蓄積の現状について、業界団体や企業での現状を調査した。その際、医療ビッグデータを蓄積するに当たっての課題、特に技術的、制度的な側面を重視した。これまで、①社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金と略記)、②生命保険業界、③創薬業界のヒアリングを行った。まず、支払基金は、医療保険の支払請求を審査し、保険から医療費を支払っているが、支払基金が扱う年間のデータ量は、20億件のレセプトデータ、0.3億件の健診データ、1.5億件の介護レセプト、さらにこれまで蓄積されたデータは医療レセプトで約110億件、特定健診等データ約1.7億件である。支払基金が担当する保険医療機関等の数は約23万か所、保険者の数は約1万8千か所、毎月取り扱うレセプトの数は約7,800万件といわれ、今後の医療ビッグデータ構築のプラットフォームになることが分かった。生命保険業界では、歩行数といった健康データを利用して、毎年一定数の歩行を行った場合、保険料が還付される生命、医療保険サービスがすでに販売されている。高齢社会での健康意識の高まりや、健康データを取るためのIT機器、特にスマートフォンの普及が挙げられる。創薬業界では、医療ビッグデータよりも遺伝子情報を創薬の開発に利用しようとしているが、医療ビッグデータは開発する新薬の絞り込みや治験での活用が考えられている。これらのヒアリングからの知見を基礎に、2年次以降の研究の方向性を決めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒアリングから得られたビッグデータの活用に当たっての課題は、①ビッグデータの蓄積の方法、②その経済的基盤である。現在、医療:健康データは150程度の地域で蓄積が始まっているといわれるが、そのシステムは個々に閉鎖的で全国で情報が共有されていない。集められている住民数も1,800万人のHealthixの比ではない。ネットワークを拡大して行くには医療・介護現場から出力されるデータの標準化に加えて、データクリーニングやマスター管理など、データの質を確保することが欠かせない。データの統合には、データの集約・交換技術(ソフトウェア)の導入、ネットワーク間の互換性の確保、セキュリティの確保などの課題もある。これらの条件が整ったとしても、レセプト、検診、介護といった個人の医療・健康データを統合することは、現行制度では極めて困難である。その理由の一つは、統合のための費用負担がある。今後、医療・健康のビッグデータの全国的な展開を積極的に推進しているオランダ、韓国、英国等の事例も調査を行う。
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Causes of Carryover |
研究代表者及び研究分担者ともに、予定していたヒアリング調査が、対象企業の都合によりキャンセルされた。しかし、それに代わる企業や医療機関が年度内に見つからなかったので、やむを得ず次年度に繰り越した。 (使用計画) 今後のヒアリング調査等に支出する予定である。
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Research Products
(20 results)