2018 Fiscal Year Research-status Report
ウェルネス社会を築く地域医療情報ネットワークの効率性及び経済効果の実証研究
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17K03741
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Research Institution | Kobe International University |
Principal Investigator |
辻 正次 神戸国際大学, 経済学部, 教授 (90029918)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井戸田 博樹 近畿大学, 経済学部, 教授 (10352957)
植木 靖 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センター 経済統合研究グループ, 研究員 (40450522)
小川 賢 神戸学院大学, 経営学部, 准教授 (70373115)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | オンライン診療 / オンライン問診 / オンライン服薬指導 / 重症化防止 / 治療中断・脱落 / かかりつけ医 / かかりつけ薬局 / 残薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、医療・介護・健康・福祉面での地域課題をICT(情報通信技術)を活用し、健康で活力のあるウェルネス地域社会を構築することにある。本研究では、医療・健康に関するビッグデータを構築し、それを医療機関や住民と共有・活用し、生活習慣病の予防と重症化の防止、二重投薬・検査の防止、医療サービスの効率化を目指すものである。今年度の研究では、2018年4月に解禁となったオンライン診療を中心に、これまで実績と今後の課題を分析した。オンライン診療とは、在宅の患者とクリニックを電気通信機器で結び、リアルタイムの患者情報を共有するものである。その内容は、①オンライン問診、②(狭義の)オンライン診療③遠隔服薬指導からなる。①オンライン問診とは、患者が診察前に自宅で、タブレットやスマートフォンを用いて、自分の病状や健康状態を入力し、また問診に回答する。これにより医師側では事前の情報収集と準備ができ、患者の主訴を把握できる。また、患者も自分の症状の変化に気付き易くなる。②オンライン診察は、遠隔の患者とスマホによるビデオチャットにより会話を行うもので、表情や声色などの患者の状態を適切に把握しながら診察できる。医師側のメリットは、訪問診療に要する移動時間を節約でき、診療の生産性を向上できる。また、簡便な診察であるので、受診・内服が困難な患者の治療からの脱落が防止できる。さらに、テキスト形式のメモにより、他職種の医療関係者との情報共有が可能となる。③遠隔服薬指導とは、オンライン診療を行っている患者で、地理的条件により対面での服薬指導が困難な場合に、テレビ電話等を活用して服薬指導を行うものである。服薬指導のオンライン化により、事前の問診、診察から薬の受け取りまで、一気通貫でデータのやりとりが完結し、在宅医療の充実を可能にする。ヒアリングを行った医師や患者からは、すでに述べたような効果が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、医療・健康に関するビッグデータを構築し、このデータを医療機関や住民と共有し、活用することで医療の効率化、患者厚生の向上を図ることを目的としている。研究の初年度では、医療ビッグデータ蓄積の現状について、業界団体や企業での現状を調査した。その際、医療ビッグデータを蓄積するに当たっての課題、特に技術的、制度的な側面を重視した。これらのデータは、主に医療機関が作成する診察、レセプト、投薬情報に関するものであり、医学的には最も重要な情報である。他方、2018年度の研究では、医療データとして在宅の患者あるいは高齢者側から発信され医師が受診する情報に焦点を当てた。この情報の特徴は、リアルタイムで測定が可能である点にある。これに対して、昨年度に検討したデータは、診察の都度収集・蓄積される断続的なものである。IT機器の発達より、血圧、脈拍、歩数といったバイタルデータをリアルタイムで収集できるウェアラブルな端末が数多く開発され、実用化されている。しかし問題は、患者側から発信された情報は、医師や医療機関にとって信頼できるのか、また診療に使えるのかである。この問題を、オンライン診療・問診・服薬指導を実施している自治体で実地調査した。その結果、患者や高齢者自身が測定し、医師側に伝送したデータであっても、対面診療と適切に組み合わせることにより、医師の診断に対して有用な情報を与えることが分かった。またこれ以外にも、訪問診療に要する移動時間の節約、診察の効率化に貢献することが分かった。また、患者に側にも、通院時間の節約、治療からの脱落、薬の飲み忘れといった問題の改善に役立つことが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで2年間の研究からは、1年目の医師側が作成ないし保有するレセプト、診察、投薬情報、2年目の患者住民が測定し発信するバイタルデータや服薬情報、これらについて知見を得た。本研究の最終年度においては、この両者を統合し、それを医療の現場でどのように役立てるか、この課題に挑戦したい。ICT機器は、①情報へのアクセス、②情報の収集・蓄積、③情報の分析、④分析結果の治療への応用といった面で貢献する。この過程に関して、これまで2年間の研究は、①と②の段階である。3年目の研究では、③と④について行いたい。その方法については、医師側が持つ診療情報と患者によるバイタルあるいはオンラインデータをどう組み合わせて、医師の診断の意思決定に役立てるかである。つまり、情報が増加すればするほど、それらのすべてを考慮して診断を下すには時間が掛かり、患者を前にして効率的でない。これには、AI(人工知能)を導入して意思決定を迅速化する必要がある。このような精巧なAIの開発には時間が掛かり、当面の研究では、小規模のクリニックを前提として、医師の診断を支援するシステムを検討していきたい。 今ひとつの方向は、オンライン診療を普及させる制度的枠組の構築である。具体的には、オンライン診療の医療保険での診療報酬化である。その前提となるのが、オンライン診療の有効性や経済性の証明である。この点、医療技術の経済評価の困難さから研究実績は皆無といってよい。最終年度では、適当な地域を選定して、アンケート調査を基礎にオンライン診療の経済効果を推定したい。
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Causes of Carryover |
予定していたヒアリング調査が、対象企業の都合によりキャンセルされた。しかし、それに代わる企業や医療機関が年度内に見つからなかったので、やむを得ず次年度に繰り越した。今後のヒアリング調査等に支出する予定である。
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Research Products
(23 results)
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[Book] 経済学辞典2018
Author(s)
水野 正一、木村 吉男、辻 正次
Total Pages
544
Publisher
中央経済社
ISBN
978-4502677601