2018 Fiscal Year Research-status Report
Building a Multidimensional Poverty Index Incorporating Living Hours
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17K03765
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
浦川 邦夫 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (90452482)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石井 加代子 慶應義塾大学, 商学部(三田), 訪問研究員 (60502317)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 多次元貧困 / 生活時間 / 健康 |
Outline of Annual Research Achievements |
浦川(2018)では、生活時間の次元に注目した貧困研究に焦点をあて,その主な分析結果をサーベイし,就労世代の二次元(所得と時間)の貧困の削減に向けた方策を検討した。生活時間の貧困を考慮した先行研究では,夫婦がともにフルタイム就労している世帯や就学前の子どもを持つ世帯などで時間貧困のリスクが高く,家庭での十分な生活時間の確保にむけた対応が重要な政策課題として浮かび上がった。また、欧米諸国と比較して日本のシングルマザーは顕著に労働時間が長く,ひとり親世帯はふたり親世帯と比べて「仕事と家庭生活の間で衝突が起きる頻度」が顕著に高いといった現実があり,ひとり親世帯については、賃金水準の底上げによる就労負担の軽減や家事・育児負担の軽減に関する政策の強化が必要である。 上記の問題意識を踏まえ、石井・浦川(2018)では、世帯主がワーキングプア(WP)の状態にある場合に,世帯における所得と時間の貧困にどのような影響が生じるか,そして,労働時間の調整がこれら二次元の貧困の脱出にどの程度の効果をもたらすかについて,慶応義塾大学・パネルデータ解析センターの「日本家計パネル調査」(2011-2016)の個票を用いて具体的に検討した。分析結果からは,世帯主の就労所得が低く、所得貧困の脱出に必要な労働時間(必要労働時間)が長いWP世帯では,もし所得貧困を脱出するために世帯主が労働時間の延長を行うと,逆に今度は時間貧困に陥ってしまうリスクが高まるというディレンマに陥るケースが無視できない割合で存在していることが示された。就労世代において、時間の貧困を引き起こす要因は、子育てと長時間の就労に加え,労働市場での低い賃金水準そのものであり,ひとり親世帯には特にその傾向があてはまる。また、ふたり親世帯でも、未就学児を抱えながら、夫婦ともに正規雇用で就労すると時間の貧困に陥りやすい点が改めて示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、「国民生活基礎調査」や「慶應大学家計パネル調査」など、官公庁や研究機関の個票データを使用し、所得・消費などの経済的観点に加え、生活時間を考慮した多次元貧困の計測を実際に進めてきた。さらに、所得や生活時間の他にも、対人社会関係・住居などの要素を貧困の一つの次元として組み入れ、Atkinson (2003)やAlikire and Foster (2011)が提唱した多次元貧困の計測を進めているところである。今後、全体の貧困を測定する上での「生活時間」の次元の相対的重要性について数量的な評価を行う予定である。相対的ウェイトの計測方法については、個票データを活用したData-driven approachや規範的な理論に基づくNormative approachなど様々なアプローチが、Betti et al. (2015)などの先行研究で提案されている。そのため、複数のアプローチから各次元の相対的ウェイトを推計することにより、わが国の貧困で特に重視すべき次元の特徴について他の欧米諸国の数値と国際比較しながら明らかにする。 2018年度は、複数の論文、共編書(浦川(2018), 石井・浦川(2018)、石井・浦川(2018))で研究成果を公表した。また、2017年度・社会政策学会秋季大会(愛知学院大学)において、共通論題「正社員の労働時間・非正社員の労働時間」の中でこれまでの研究成果の一部を「就労世代の生活時間の貧困に関する考察」として報告した。 なお、社会の人々の「貧困に対する捉え方」を調べたアンケート調査の実施は、平成30年度末にParis School of Economicsの国際Workshopに参加し、海外の研究者から格差・貧困研究の動向について多くの知見を得たため、そこでの検討事項を質問項目に十分に反映させるべく、2019年度の調査実施に変更した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、独自アンケート調査を行い、同調査の結果から社会の人々の「貧困に対する捉え方」を踏まえた多次元貧困指標の関数形・パラメータの抽出をEsposito and Chiappero-Martinetti (2010)、Betti et al. (2015)などの手法に基づいて行う。そして、これらの結果を海外の先行研究の結果と比較することで、わが国の貧困削減に向けて重視すべき対象や政策を特定化する作業を行う。 また、これまでに実施した研究の成果をもとに、本研究全体のとりまとめを集中的に行うとともに、今後の発展に向けた研究課題を明らかにする作業を行う。昨年度に続き、研究成果は各種の学会、研究会において発表し、雇用制度改革の方向性、貧困削減のための家族政策・福祉政策のあり方について包括的な議論を行い、論文、著書、その他出版物としてまとめる。とりまとめにあたっては、専門人材の協力も得ながら、英文による外国への情報発信も積極的に取り組む。研究が当初の計画どおりに進まないケースにおいては、関連する専門分野の教員、研究員に助言を仰ぐとともに、研究計画、予算計画の適切な修正を行い、当初の目的の大半が達成可能となるように努める。また、研究を効率的に進めるうえで、本研究に関連する海外の研究者の方々とも連携をとり、本研究の進捗状況を積極的に公表することで、より多方面からの視点を組みいれ、質の高い研究が行えるように努める。
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Causes of Carryover |
当初、2018度に実施予定の独自アンケート調査は、社会の人々の「貧困に対する捉え方」を踏まえた多次元貧困指標の関数形・パラメータの抽出をEsposito and Chiappero-Martinetti (2010)やBetti et al. (2015)などの手法に基づいて行い、これらの結果を海外の先行研究の結果と比較することで、わが国の貧困削減に向けて重視すべき対象や政策を特定化することを予定していた。しかし、平成30年度末にフランスのParis School of Economicsの国際Workshopに参加し、海外の研究者と貧困研究について様々なディスカッションを行う機会を得たことから、そこでの検討事項、最新の研究動向を質問項目に十分に反映させるため、当初の研究計画におけるアンケート調査の実施期間を約半年後ろ倒しし、2019年度に実施することとした。
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