2019 Fiscal Year Research-status Report
Building a Multidimensional Poverty Index Incorporating Living Hours
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17K03765
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
浦川 邦夫 九州大学, 経済学研究院, 教授 (90452482)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石井 加代子 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 特任准教授 (60502317)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 多次元貧困 / 生活時間 / 健康 |
Outline of Annual Research Achievements |
Urakawa and Tokukdomi (2019)では、主観的な尺度に基づく等価尺度の計測をアンケート調査をもとに行い、諸々の世帯類型間の最低必要所得(主観的貧困線)の差異の特徴や、等価尺度の地域差の有無を検証した。結果として、世帯人数の多い世帯での主観的貧困率はOECD基準の相対貧困率より相当小さく、他方で単身世帯の主観的貧困率が高くなる傾向が見られた。また、首都圏では、単身世帯と比べ、夫婦子供あり世帯などの世帯類型の等価尺度が有意に大きく、住宅や子育てに関するコストの高さから規模の経済性が働きにくい状況が示唆された。 Wang and Urakawa(2019)では、就労世代の多次元(所得、生活時間、社会的関係)の貧困が健康(主観的健康感やK6)とどのように結びついているかについて個票データを用いた検証を行った。パネルデータ分析の結果からは、多次元での貧困が生じている場合、個々の次元での貧困が健康に与える負の影響を上回る形で健康への悪影響が生じる点が示唆された。 Urakawa, Wang and Alam(2020)では、就労世代の生活時間の貧困が健康関連の諸活動(睡眠、飲酒、喫煙、運動など)にどのような影響を与えるかについてアンケート調査の個票データを用いた分析を行った。計量分析の結果として、男性では、生活時間の不足が運動や睡眠時間の減少と関連しており、女性では、所得と生活時間の同時貧困が飲酒行動と結びついている点が示された。 欧米諸国と比較して日本のシングルマザーは顕著に労働時間が長く、ひとり親世帯はふたり親世帯と比べて「仕事と家庭生活の間で衝突が起きる頻度」が顕著に高いといった現実がある。ひとり親世帯については、賃金水準の底上げによる就労負担の軽減や家事・育児負担の軽減に関する政策の強化が必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、「国民生活基礎調査」や「慶應大学家計パネル調査」など、官公庁や研究機関の個票データならびに独自に収集したアンケート調査を使用し、所得・消費などの経済的観点に加え、生活時間を考慮した多次元貧困の計測を進めてきた。さらに、所得や生活時間の他にも、対人社会関係・住居などの要素を貧困の一つの次元として組み入れ、Atkinson (2003)やAlikire and Foster (2011)が提唱した多次元貧困の計測を進めてきた。現在、全体の貧困を測定する上で、所得や生活時間を含む様々な次元の相対的重要性を示すウェイトの数量的評価を行っているところである。相対的ウェイトの計測方法については、個票データを活用したData-driven approachや規範的な理論に基づくNormative approachなど様々なアプローチが、Betti et al. (2015)などの先行研究で提案されている。複数のアプローチから各次元の相対的ウェイトを推計することにより、わが国の貧困で特に重視すべき次元の特徴について、他の欧米諸国の数値と国際比較しながら明らかにする。 2019年度は、複数の論文、共編書(Urakawa and Tokudomi (2019), Wang and Urakawa(2019), Urakawa, Wang and Alam(2020))で研究成果を公表した。また、2019年6月にスウェーデンのSigtunaで開催された国際学会(International Studies on Social Security (FISS), 26th)において、論文 "Income and housing poverty: Multidimensionality, heterogeneity and nonlinearity" を報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、2019年度に生じた新型肺炎の問題などを踏まえ、当初の研究計画(2017年度-2019年度)を改め、2020年度までの研究計画に変更を行った。 2020年度は、社会の人々の「貧困に対する捉え方」を尋ねた独自調査の結果を踏まえ、2019年度に続き、多次元貧困指標の関数形・パラメータの抽出を扱った複数の論文の投稿・改訂作業を進める。また、これらの結果を海外の先行研究の結果と比較することで、わが国の貧困削減に向けて重視すべき対象や政策を特定化する作業を行う。 また、これまでに実施した研究の成果をもとに、本研究全体のとりまとめを集中的に行うとともに、今後の発展に向けた研究課題を明らかにする作業を行う。研究成果は各種の学会、研究会において発表し、雇用制度改革の方向性、貧困削減のための家族政策・福祉政策のあり方について包括的な議論を行い、論文、著書、その他出版物としてまとめる。とりまとめにあたっては、専門人材の協力も得ながら、英文による外国への情報発信も積極的に取り組む。 研究が当初の計画どおりに進まないケースにおいては、関連する専門分野の教員、研究員に助言を仰ぐとともに、研究計画、予算計画の適切な修正を行い、当初の目的の大半が達成可能となるように努める。また、研究を効率的に進めるうえで、本研究に関連する海外の研究者の方々とも連携をとり、本研究の進捗状況を積極的に公表することで、より多方面からの視点を組みいれ、質の高い研究が行えるように努める。
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Causes of Carryover |
2019年度末に発生した新型肺炎の問題を受け、研究計画を当初の3年間から4年間に変更し、2020年度に当該研究の取りまとめを行うこととした。
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