2018 Fiscal Year Research-status Report
地方債格付けの効果に関する実証分析:市場公募資金の低利・安定的な調達に向けて
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17K03766
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
石田 三成 琉球大学, 国際地域創造学部, 准教授 (40571477)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地方債 / 市場公募債 / 信用リスク / 信用力 / スピルオーバー / コンテイジョン / 格付 / 金利軽減効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、自治体が発行する地方債のうち市場公募債(直接金融)を対象として、以下の点について定量的な分析を通じて解明することである。①依頼格付けを取得することの費用対効果(ミクロの効果)、②地方債市場において信用リスクのスピルオーバー(=コンテイジョン・ショックの伝播)は観察されるのか、そして、③観察されるならば格付けはそれを軽減できるのか(マクロの効果)、の3つである 平成30年度は上記のうち①と②について一定の研究結果が得られ、書籍として公刊されるに至った。 まず、①の格付け取得の費用対効果については、格付けを取得することで金利スプレッドが1.7~2.3bp(ベーシスポイント、万分率)だけ低下することが判明し、格付けを取得することに効果があることが認められた。さらに、市場公募債の発行金額が大きい団体や財政状況が良い団体ほど格付けを取得に積極的であることも明らかとなった。つまり、市場公募団体は、自身の財政状況が良好であれば、また、格付け取得による金利軽減効果が取得費用を上回りそうであれば、格付けを取得する傾向にあることが分かった。 つぎに、②の信用リスクのスピルオーバーについては、財政状況が類似する他団体で金利スプレッドが上昇すると、自身の金利スプレッドも上昇する傾向にあることから、日本の地方債市場においてもその存在が確認された。また、団体および年度の個別効果を除去しても金利スプレッドには発行団体の信用リスクが織り込まれており、市場による規律付けも認められる。以上より、日本の地方債市場では、信用リスクのスピルオーバーの存在により、自らの信用リスクを他団体に共有・希釈させることから、市場による規律付けは認められるものの、それは十分に機能していないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の3つの目的のうち、①依頼格付けを取得することの効果、および②信用リスクのスピルオーバーの存在、のふたつについては、その研究成果を公刊することができたことから、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
信用リスクのスピルオーバーの存在が認められたことから、追加的な課題として、信用リスクのスピルオーバーをどのようにして軽減していくのか、言い換えれば、ある団体において財政状況が悪化したときに、その悪影響を他団体に波及させないようにするためにはどうすればよいかを考察する必要がある。 現時点では、依頼格付けがその役割の一部を担うことができるのではないかと考えているが、他にも信用リスクのスピルオーバーを軽減する手段があるかもしれない(市場との対話を増やす、など)。そこで、2019年度は、格付けのほか、自治体によるIR政策などが信用リスクのスピルオーバーを軽減できるかを検証していきたい。
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Causes of Carryover |
市場公募債に関するデータの収集に一定の費用が発生すると想定していたが、無償で提供を受けたため、それに関する費用を抑えることができた。次年度は、論文の発表や投稿の機会を増やすほか、実務担当者との意見交換の回数を増やすことで、研究の厚みを増すような取り組みを行いたい。
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