2018 Fiscal Year Research-status Report
19・20世紀世界経済統合のなかのドイツ植民地経済論
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17K03855
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
浅田 進史 駒澤大学, 経済学部, 教授 (30447312)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ドイツ / 植民地主義 / 植民地経済 / 帝国主義 / グローバリゼーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は予定通り、植民地貿易論に焦点をあてて史資料の収集を行った。これまでドイツ本国の対外貿易に占める対ドイツ植民地輸出入貿易の割合が低かったことから、ドイツ本国にとっての「植民地産品」の重要性が過小評価されてきた。しかし、1902年から第一次世界大戦まで3度にわたって開催されたドイツ植民地会議では、同時代の植民地政策担当者は、ドイツ植民地の輸出入貿易を、対ドイツ帝国との関係だけではなく、英仏などほかの植民地帝国との関係から議論していた。その複合的な関係にあって、ドイツ帝国の政策担当者にとって、ドイツ植民地産のドイツ市場向け、および世界市場向けの輸出入貿易は、決して軽視すべきものではなかったのである。 この点を念頭において、ベルリン=リヒターフェルデ連邦文書館に所蔵されている「植民地経済委員会」(R 8024)および「ドイツ植民地協会」(R 8023)所蔵の「植民地経済委員会」史料の調査・収集を行った。さらに、このドイツ植民地経済委員会関係の同時代文献を、ベルリン州立図書館で複写・収集した。 これに加えて、ポストコロニアル研究およびグローバル史の視点からドイツ植民地主義研究を進めてきた、ベルリン自由大学のゼバスティアン・コンラート氏の論考を翻訳し出版した(「グローバル・ヒストリーのなかの啓蒙(上、下)」『思想』第1132号、2018年8月、第1134号2018年10月)。そして、2019年2月下旬にコンラート氏が来日した折に、今後の研究計画について意見交換を行った。 また、2019年2月末から3月第1週にかけて、研究協力者である星野桃子氏に、ブレーメンのドイツ連邦文書館で、旧ドイツ植民地であるタンザニアへの西ドイツの開発援助に関して、植民地主義との連続性と変化・断絶を念頭に、昨年度のフォローアップ調査を依頼し、史料収集と分析を行ってもらった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の活動の最大の目的である、ベルリン=リヒターフェルデ連邦文書館所蔵の「植民地経済委員会」(R 8024)は、350以上のファイル数に及ぶ大部のものであり、まずその史料群の全体像を把握することに努めた。この史料群は、「展示会・会議」、「移民」、「部局、官吏」、「鉄道」、「貿易・経済」、「植民地会社、協会、銀行、事業」の6つに分類されている。 今回の史料調査は、本務校での学務の関係から、3月13日から21日までの1週間ほどしか調査期間をとることができず、フォローアップ調査を念頭に、まずこの委員会についての全体像をつかむために、「部局、官吏」と「植民地会社、協会、銀行、事業」の一部のファイルを集中的に分析した。また、「ドイツ植民地協会」(R 8023)に含まれた植民地経済委員会についての2つのファイルを収集した。さらに、「植民地経済委員会」の史料は、「植民地省」(R 1001)にも所蔵されており、こちらはWebで公開されており、あわせて収集した。 おおむね研究課題との関連では、順調に進んでいるが、上述した通り、「植民地経済委員会」(R 8024)のファイルは数が多く、まだ分析しきれておらず、フォローアップ調査を行う必要がある。 当初の予定では、昨年度中に2017年度に収集した史料をもとに学会報告を行う予定であったが、学務の関係から2019年度に行うことにした。その代わりに、本研究テーマ関連する成果として、日本植民地研究会編『日本植民地研究の論点』(岩波書店、2018年7月)で「コラム 植民地責任論」の執筆をあげることができる。また、ドイツ植民地主義関連の同時代文献および新しい研究成果についても、昨年度に引き続き調査と収集を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、研究計画通り、ドイツ植民地通貨・金融論に焦点をあてて分析を行う。本研究テーマの視点である世界経済統合とドイツ植民地経済政策との関係性を考察する際に、ドイツ領東アフリカ(現タンザニア、ブルンジ、ルワンダ)でのインド・ルピー導入をめぐる議論とその帰結に関する史料を収集・分析する。このドイツ領東アフリカへのインド・ルピー導入は、ドイツ本国経済・植民地液剤・世界経済の相互規定性を明示する事例となるだろう。 ルピー導入を推進した中心人物は、カール・ヘルフェリヒである。彼はドイツ帝国創建とドイツの金本位制の導入に関する研究を行っていた人物であり、外務省植民地局に招聘された。そしてドイツ植民地経済政策を主導する官僚の一人として、ルピー通貨鋳造を担ったドイツ領東アフリカ銀行の設立に深く関与した。1904年、ドイツ領東アフリカでは、通貨発行の権限がそれ以前の植民地会社から新たに設立された東アフリカ銀行に移行した。これは、ドイツ領東アフリカ経済をインド洋経済と接合させる金融的基盤を作り出すためのものであった。 このテーマについて、ベルリン=リヒターフェルデに所蔵されているドイツ領東アフリカ・ルピーを発行したドイツ東アフリカ銀行関連の史料(BArch, R 1001/6411-6415a)の史料が分析対象の中心となる。 2019年夏にベルリン=リヒターフェルデ連邦文書館で史料調査・収集を行う。その際、本年度に残された課題である「植民地経済委員会」史料についても、フォローアップ調査を行う。さらに、本年度後半に、2017年度に収集したドイツ船籍によるアジアでの植民地間契約労働者輸送をテーマとした学会発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2018年度は学科主任という学務の関係から年度末にベルリンでの史料調査を行わなければならず、その分の支出額が2019年度決算に回されたことで、会計処理上、多くの金額が2019年度使用額となった。また、当初2週間以上の研究調査を行う予定であったが、やはり学務の関係上、1週間ほどに短縮せざるをえなかった。2019年度以降は、学科主任ではなくなるため、学務による時間的拘束は大きくない。そのため、2018年度分も合わせた、比較的長期の在外調査により、2019年度に予定した課題と、2018年度分のフォローアップ調査を行う。
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Research Products
(1 results)