2017 Fiscal Year Research-status Report
統合基幹業務システムにおけるライフサイクル・マネジメントに関する実証研究
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17K03908
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
横田 明紀 立命館大学, 経営学部, 教授 (30442015)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ライフサイクル / 統合基幹業務システム / 事例調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度である2017年度では、まず情報システムの本稼働後の段階を捉えたライフサイクルに関わるこれまでの資料の精査を行った。一般的な受託開発の情報システムに関するライフサイクルとして、情報システムに関する保守要求が運用される時間の経過とともにユーザ支援→修正→拡張へと変化し、そうした保守要求の変化に基づきライフサイクルを製品ライフサイクル同様に「導入ステージ」「成長ステージ」「成熟ステージ」と区分したものがある。しかしながら、改廃の時期である衰退期が十分に捉えられているとはいえず、また、時間の経過による保守の作業量の推移については異なる見解もある。McClure(1981)は保守作業量は当初に大きく、次第に減少していき、次の大きな改訂につながり、その後は、このサイクルが繰り返されることを指摘しており、Huang&Yasuda(2016)もパッケージベースでの統合基幹業務システム(ERP: Enterprise Resource Planning)を対象にしたライフサイクルとして、幾つかのステージが繰り返されることを述べている。さらに、横田・安田(2010)はERPでの本稼働の開始から5ヶ年の保守作業に関する調査において3つの傾向期があることを示し、特に比較的安定した運用が実現する時期と、比較的大規模な情報システムの拡張や改善が行われる時期が何度か繰り返されながら、最終的に改廃という段階へと進んでいくことを示唆している。 こうしたライフサイクルに関する精査の上で、2017年度では特定の調査企業を対象とした事例調査を実施し、過年度に実施してきた研究手法に基づき、システム面での機能強化や性能の維持を示す保守の件数と工数に関するデータ、および、業務面での実際の利活用の実態を示すユーザ数、ログイン数、利用時間に関するデータの収集に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではITガバナンスとKPI(重要業績評価指標)についての関係の解明を図ることを1つの課題としている。そのために、1.これまでの研究で行ってきた「情報システム」および「業務」の両側面から、ERPの運用において企業で長年にわたり蓄積されている記録(データ)を収集、精査し、利活用段階での時間の経過とともに、これら両側面に関する各データの推移を示し、それらデータの推移が大きく変化する時期に着目することで利活用段階を幾つかのステージに区分し、その上で、2.各ステージで企業がERPに対し何をKPIとして運用もしくは管理してきたのかを明らかにすることを計画している。 こうした研究の目的および計画に対し、2017年度では情報システムの本稼働後の段階を捉えたライフサイクルに関する先行研究を精査し、各先行研究でのライフサイクルの捉え方、および課題については一定の整理ができたものと考えている。他方で、研究当初に2017年度で予定していた戦略とIT投資のマネジメントを視点とした研究や、情報システムの利活用において各先行研究でどのようにKPIが捉えられているのか、また、その現状と課題についての精査、および、ERPの利活用の実態に関する調査・分析手法の確立を目的とした特定の企業を対象としたモデルケースの分析については、必ずしも当初の予定通り研究が履行できていない部分がある。その最も大きな理由として、機密情報に関わることから企業からの調査に関するデータ収集が難航したこと、および、当初計画していた収集すべきデータの一部の必要項目に欠損や、継続的に記録が残されていない部分があったことがある。
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Strategy for Future Research Activity |
先の「現在までの進捗状況」で述べた研究遅延の原因について、時間の消失を可能な限り最小限に止めることができるよう、できるだけ速やかに特定の企業を対象としたモデルケースでの分析を進めたい。そうしたなかで、最も大きな課題となっているデータの収集について、可能な範囲で欠損しているデータや入手が困難なデータを補完するため、追加の聞き取り調査の実施や他の分析方法を摸索する。また、これらの調査と分析を踏まえ戦略とITへの投資マネジメントを視点とした研究や、情報システムの利活用において各先行研究でどのようにKPIが捉えられているのかについて、その現状と課題についての精査を平行して実施する。 2018年度では、これまで行ってきた先行研究やモデルケースでの調査と分析に関する整理とまとめを、論文の執筆を通じて行う。加えて、学会での報告や海外の学会へも参加することで、学術的な側面からの情報交換と情報収集に努める。また、先行調査での調査・分析手法を踏まえ、当初に計画をしていた複数の企業を対象とした展開調査の実施に着手する。そのために、調査が可能な企業数および情報システムの事例数の確保を2017年度に引き続き進める。調査可能な企業に対しては、逐次、各企業でのERPの利活用の実態に関わるデータを収集、分析し、そのデータの推移の変化を捉えるとともに、長年の運用においてそれぞれの時期に調査企業が何をKPIとしてERPを管理してきたのかについて考察を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、主に物品費と旅費が予定どおり執行できなかったことがある。物品費では、当初の予算計画においてノートパソコンの購入を予定していた。しかし、購入を2018年度に延期したため、この部分での予算に残額が生じることとなった。旅費については、調査企業の多くが大都市圏に集中しており、一度の出張で複数の調査企業を効率的に訪問することができこと、および当初は調査企業の大部分が首都圏に集中することを想定していたが、関西圏でもいくつかの調査企業が確保できたため、旅費を抑制することができた。また、研究の進捗の遅れから国際学会への参加を見送ったことも予算を残す要因となった。 使用計画として予算に多くの残額が生じる要因となった旅費について、本年度は学会への参加や報告を積極的に実施する。加えて、海外研究者との打合せのための海外渡航や、国際学会への参加などを通じ研究者間での情報交換や情報収集についても行う。さらに、本年度からは複数企業に対する調査も予定しており、こうしたことから旅費についての執行が増加するものと考えている。また、2017年度で見送った備品類についても2018年度に購入する。
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Research Products
(1 results)