2018 Fiscal Year Research-status Report
統合基幹業務システムにおけるライフサイクル・マネジメントに関する実証研究
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17K03908
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
横田 明紀 立命館大学, 経営学部, 教授 (30442015)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 統合基幹業務システム / 評価モデル / ライフサイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度では、先行研究の精査を踏まえ、組織と統合業務パッケージシステム(ERP: Enterprise Resource Planning)との間の整合性の状態を評価する定量的アプローチの構築を試みた。ここではERPの保守や運用の内容をHenderson&Venkatraman(1993)およびLuftman(2000)の先行研究に基づき、(1)組織的な問題と(2)技術的な問題、およびシステムの既存機能の調整や改良を行う(3)日常的な保守活動と新たな機能の追加や拡充をともなう(4)拡張的な保守活動に区分する4つの評価基準と、それぞれの評価基準内を(1)安定的な利用ゾーン、(2)普及・伝播ゾーン、(3)拡張ゾーン、(4)衰退ゾーンに分類する4つの評価ゾーンに識別する「業務とERPの整合性に関する評価モデル」を提示した。さらに、この評価モデルにしたがい、横田・安田(2010)が行った3つの企業でのERP本稼働開始から5ヶ年の保守の作業内容と件数に関するデータを用い、時間の経過とともに、ERPの保守や運用の状態がどのように変化するのかを分析した。 結果として、3つの企業では運用開始初年度には普及・伝播ゾーンに位置づけられるが、その後、急速に安定的な利用ゾーンに収まり、しばらくこの状態が維持されていくことが確認された。しかし、本稼働後約4年目から5年目には拡張ゾーン拡張ゾーンで位置づけられる範囲が多くなる。この時期にはいずれの企業でも比較的大規模な情報システムの拡張や改善が行われており、そうした変化をモデルを通して示すことができた。 このモデルを用いることで、ERPが本稼働後にどのような位置づけの変遷を辿るのかを時系列に把握することが可能となる。今回は本稼働開始から5ヶ年間であったが、今後はより長期の運用期間を分析対象とし、運用段階におけるライフサイクルの詳細な変化を捉える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先の研究実績の概要でも述べたように、本研究を進める上での事例分析のモデルについては、ビジネス(業務)とITに関わる整合性などを分析している先行研究を踏まえ、ほぼ大枠が完成したと考えている。しかしながら、いくつか不完全な部分も残っている。本研究ではITガバナンスとKPI(重要業績評価指標)についての関係の解明を図ることを課題の1つとしている。2018年度での研究を通じ、ERPの運用段階におけるライフサイクルの詳細な変化を捉えていくための分析モデルや分析のアプローチについては整理ができつつあるが、ライフサイクルにおけるそれぞれの段階のなかで、どのようにKPIを把握していくかについては必ずしも十分に整理し切れていない。この点について、新たな先行研究や情報システムの利活用の実態調査などを踏まえて補足する必要がある。 また、当初の研究計画ではモデルケースでの先行調査を踏まえ、ライフサイクルにおけるそれぞれの段階のなかでKPIとなり得る指標の把握、および改廃期での特徴について分析を行うことを計画していたが、調査に関するデータ収集が難航したこと、および、昨年度に引き続き当初の予定・計画していたデータの必要項目の一部に欠損や、継続的に記録が残されていない部分があったことから十分な考察が行えていない。現在、こうした計量的なデータの欠損を補うために、定性的な分析を行うことを予定している。しかし、定性的なデータの取得には調査相手との緻密な打合せを数多く実施する必要があり、こうしたことが計画に対して遅延が生じる要因となっている。速やかに定性的なデータの取得に取り組むことで、今後の分析を円滑に進め、遅延に対する時間的なロスを最小限に抑制する。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度では主に事例の収集と分析を中心に研究を進める。Henderson&Venkatraman(1993)はStrategic Alignment Modelにおいて経営戦略とIT戦略、および組織とI/Sに関するインフラストラクチャとプロセスがすべて整合性を保ちつつ組み合わされることを指摘している。たしかに、経営戦略と組織のインフラストラクチャとプロセスの間では、事業戦略を実行するために、組織構造、業務プロセス、業務に精通した業務スキルと役割を持った人材が整合的に組み合わされていなければ有効に機能しない。また、IT戦略とI/Sのインフラストラクチャとプロセスの間でも、IT戦略を成し遂げるには情報システムの基盤構造となるIT設計思想とITガバナンス、業務プロセスを実現するための情報システムの機能とデータ、そして情報システムを企画・導入・運用するためのITスキルと役割を持った技術者が整合的に組み合わされていなくてはならない。このように個々の次元には整合的に組み合わされていなければならない要素が存在する一方、必ずしも整合的に組みされるわけではない要素も存在する。例えば、経営戦略に位置づけられている事業の範囲とITに関する技術的選択の範囲はある程度独立した検討課題を有することが多い。同時に、これらの戦略の間では求められる人的な能力についても、事業で必要とされる技能や役割とIT部門で必要とされる技能や役割は明らかに同質ではない。このことから経営戦略とIT戦略ではそれぞれの戦略に沿って整合すべき構成要素が異なり、構成要素間が適切に調整できず不整合を生じたねじれ状態を誘発しやすい。研究実績の概要において先述したモデルとともに、これらの戦略やプロセスに関する構成要素間のねじれに着目しながら、収集した事例においてERPの運用段階におけるライフサイクルの詳細な変化を分析する。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由として、主に物品費と旅費が予定どおり執行できなかったことがある。物品費では、当初の予算計画において統計ソフトウェアの購入を予定していた。しかしながら、先行研究の精査やそれらを踏まえたアプローチ方法の模索、分析モデルの設定に予定以上に時間を要したため、事例に関する具体的な分析に遅れが生じ、これらのソフトウェアの購入を見送った。また、2018年度中より複数のERP導入企業を対象とした展開調査へと研究を進めることを計画していたが、アプローチ方法の模索や分析モデルの設定に関する遅延にともない、この点についても遅れが生じた。このため、旅費に関する予算の執行が予定よりも少なくなる結果となった。 今後の使用計画として、今年度、新たな事例調査先をできるだけ多く確保し、事例数の拡充に努めるとともに、昨年度からの調査を引き続き実施することで、予定通り旅費が執行できるように努める。また、事例の収集とともに分析についても迅速に取り組めるように予定していたソフトウェアの購入を行う。加えて、海外での研究打合せに関して、現在、昨年度の調査内容をまとめているところであり、このまとめの作業が完了次第、打合せのための海外渡航と、国内外での学会において積極的な研究発表を行う。
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Research Products
(4 results)