2018 Fiscal Year Research-status Report
欧州自動車多国籍企業の生産ネットワーク戦略の基本構造と進化に関する実証的研究
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17K03915
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
細矢 浩志 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (10229198)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 欧州自動車産業 / 生産ネットワーク / 国際分業 / 国際経営 / 多国籍企業 |
Outline of Annual Research Achievements |
○本研究の目的は,欧州連合(EU)の東方拡大後のヨーロッパ周辺諸国における大手自動車企業子会社の経営実態の分析をつうじて多国籍企業の国際的なネットワーク型生産・分業モデルの基本構造とその発展の方向性を明らかにすることにある。 ○2018(平成30)年度は,主に次のような研究に取り組んだ。第一に,当該研究課題にかかわる内外先行研究の調査・検討,統計・時事ニュース等の解析にもとづく事実関係の把握・整理を推し進め,多国籍企業による生産ネットワーク戦略の展開プロセスに留意しながら,EU東方拡大以降の中東欧周辺諸国における自動車産業の発展史とその特徴を取りまとめ,研究成果として学会発表した。 ○第二に,欧州自動車生産ネットワークにおける新旧周辺国のチェコ,スペインそれぞれについて多国籍企業フォルクスワーゲン(VW)の現地子会社の活動実態を分析し,その特徴的な事業展開(チェコ=R&D増伸,スペイン=非量産ニッチモデル製造)の国際経営上の意義を検討した。周辺国分業拠点が(低賃金活用型の)量産車の組立に止まらず多様な活動を繰り広げていることから,多国籍企業グループの統轄による制約下という条件ではあるが,集積による産業発展の可能性があることを把握した。 ○第三に,自動車産業がAIの活用や自動運転技術の開発など急激な事業環境の変化に直面していることに注目し,メーカーの競争戦略として近年進展著しい「電動化」への対応を取り上げ,その展開動向について検討した。欧州自動車多国籍企業の「電動化」戦略は,グループの生産ネットワーク戦略と連動し,拠点の配置や活動の再編を促すなど子会社事業の展開を規定していることを明らかにした。研究成果の一部は講演会報告として取りまとめ公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
○本研究で検討対象に設定した三周辺諸国(チェコ,スペイン,ルーマニア)のうち,チェコ(新周辺国)に関する研究については,EU東方拡大以降の中東欧自動車産業発展史の確認ならびにR&D事業の解析をつうじて,現地子会社経営の全体的な特徴を把握し中間総括的な取りまとめを行っている。スペイン(旧周辺国)についても,先行研究と統計・史資料の解析にもとづく検討作業に取り組み,大手企業の生産ネットワーク戦略における現地子会社経営の位置づけに関する基本性格を確認するなど着実に研究を遂行している。 ○多国籍企業の現地子会社活動を理論的に説明する国際的なネットワーク型生産・分業モデルの解明については,チェコにおける多国籍企業の子会社経営に関する文献・資料解析ならびに現地調査にもとづいて,周辺国におけるR&D事業の進展を軸とした企業経営と「高度化」が織り込まれた産業発展との関係を説明する理論モデルの糸口を掴むことが出来た。周辺諸国の多様な活動実態が,現地子会社に固有の立地条件を反映したものであり,多国籍企業の行動原理として有効な参照基準であるOLIパラダイムの論理的妥当性の発展可能性を示唆するものであるとの認識を高めつつある。 ○2018(平成30)年度は,研究拠点の改修工事にともない半年間研究拠点の閉鎖を余儀なくされる等の研究環境の制約により参照すべき史資料の利活用に少なからぬ支障が生じたため,十分な検討を行うことが出来なかった論点もあるが,年次計画で掲げた前半部分の研究課題については予定した方法に即して検討・分析を進めてきた。概ねテーマに沿った研究を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
○今後も本研究調書で示した方法と計画に則り,研究を遂行する予定である。 ○2019(令和元)年度は,独VW・仏ルノー両社ともに現地子会社が存在する「旧」周辺国スペインならびに仏ルノーによる分業拠点構築が進む「新」周辺国ルーマニアに関する「構造・動態分析」と現地調査に取り組む。スペインについては,EU東方拡大以前から欧州生産ネットワークの重要な構成地域であった点に注目し,拡大前後で企業・産業活動がどう変化したのかという点に留意する。ルーマニアについては,内外先行研究が比較的手薄で,なおかつ現地情報に乏しい現状を踏まえながら,統計・史資料・時事ニュースによる解析と現地調査にもとづく分析・検討を着実に推進する。 ○研究のさらなる発展・拡充を図る観点から,欧州自動車産業における「電動化」やCASE(C=Connected,A=Autonomous,S=Shared & Services,E=Electric)戦略の展開を調査対象に加え,その最新動向について分析・検討を行う。とくに「EV(電気自動車)シフト」と称される戦略転換を推し進めている独VWの「電動化」動向に注目し,それが生産ネットワーク・国際分業体制の再編にどのような影響を与えているのかという点について考察する予定である。「電動化」分析については,多国籍企業の国際経営に関する理論モデルの拡充・発展に着手するための予備研究と位置づける。
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Causes of Carryover |
○2018(平成30)年度に次年度使用額が生じたのは,第一に,前2017(平成29)年度と同様,調査史資料の整理・データ入力作業を担当予定の要員雇用(人件費)を節約できたこと,第二に,2018(平成30)年度に予定していた海外現地調査の実施が,先方との都合調整により次年度に繰り延べされたことが主な理由である。次年度に繰り越し予定の助成金は,現地調査用経費として使用する。 ○2019(令和元)年度の研究費総額は,実施計画書に記載した当該年度の研究経費と繰り越し金との合計額を予定する。
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Research Products
(2 results)