2020 Fiscal Year Research-status Report
欧州自動車多国籍企業の生産ネットワーク戦略の基本構造と進化に関する実証的研究
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17K03915
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
細矢 浩志 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (10229198)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 欧州自動車産業 / 生産ネットワーク / 国際分業 / 国際経営 / 多国籍企業 |
Outline of Annual Research Achievements |
○2020年度は,世界的に進展しつつある車両「電動化」の潮流が欧州の自動車生産ネットワークにどのような影響を及ぼすのかという問題を中心課題に据えて研究を遂行した。これは,新型コロナウイルスの感染拡大という社会・経済環境の変化を受け昨年度から本研究計画に加えた研究課題のひとつである。 ○「100年に一度の大変革」と称される自動車産業の環境変化=CASE革命(コネクティド,自動化,シェアリング,電動化)とともに,欧州自動車産業の行方に密接にかかわる政治・経済情勢として急浮上したEUの成長戦略「グリーンディール(GD) 」に注目し,その基本的な特徴・性格を分析するとともに,CASE革命ならびにGDのもとで欧州自動車産業はどのように対応しようとしているかを探るべく,主要自動車多国籍企業の「脱炭素」戦略の基本構図と今後の展望,欧州における「EV(電気自動車)シフト」の性格等について考察した。 ○成果として提示した見解は以下の点である。①欧州GDは,単なる「成長」戦略でなく化石燃料に替わる再生可能エネルギーの普及・推進によるクリーンエネルギー転換と,循環型経済モデル(=廃棄物削減・資源再利用を経済活動の一環として重視する新しい経済モデル)の構築を意図した「社会変革」戦略であり,そのインパクトとEUの本気度を軽視すべきではない。②欧州における「EVシフト」は社会・政治潮流に後押しされた,市場ニーズとは異なる「政府主導」という力学で推進されており,一定の制約下にあるとはいえ欧州で今後も続く潮流と見るべきである。③「電動化」戦略については日欧で明確な違いが指摘できる。欧州では脱エンジン車=EV推進を鮮明に打ち出しているのに対して,日系企業はハイブリッド車(HEV)等のエンジン車をはじめEVやFCV(燃料電池車)を含めた全方位でCO2削減と各国・地域のニーズに応える戦略を採用している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
○新型コロナウイルスの感染拡大による海外渡航制限の継続を受けて新たに加えた研究テーマ=欧州「電動化」動向・EVシフトが生産ネットワークに及ぼす影響についての研究は,最新ニュースやネット情報に依拠して比較的順調に推進することができたが,本研究計画の中核的な研究テーマと位置づける欧州多国籍企業の現地子会社の実態分析ならびに生産ネットワーク戦略の基本構造の解明については,少なからず課題を残している。 ○国際分業あるいは生産ネットワークにかんする理論・実証両面での学術的な先行研究の乏しさに加えて,それらを収集・解析することが想定した以上に進展しなかったことが理由のひとつである。 ○欧州周辺諸国における多国籍企業現地子会社の事業活動については,低賃金活用型の単純作業・低付加価値活動ばかりでなく製品設計やR&D活動など高度な活動が進展しているようすは概ね把握できたとはいえ,それらは業界ニュースや専門セミナー・一般報道・ネット情報を踏まえたものにとどまり,その時系列的な変化や業種・分野の特定・特徴など活動の「多様性」にかんする立ち入った分析・検討・整理は,想定した以上に進展させることができなかった。 ○実態把握に必要な情報収集の機会として本研究計画で重視している海外現地調査が,新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって前年度に続き今年度も遂行できなったことが最大の理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
○研究計画の最終年度に該当することに鑑み,原則として前年度までの研究成果を点検・整理しつつ,本研究計画において未達の研究課題を確認・遂行し,本研究全体をとりまとめ総括する。 ○中核的な研究テーマと位置づける欧州多国籍企業の現地子会社の実態把握にもとづく生産ネットワーク戦略の基本構造の解明については,ルーマニアを除くチェコとスペイン両国(欧州ネットワークの典型的な新旧周辺国)における独VWと仏ルノーそれぞれの現地多国籍企業子会社の事業活動実態の調査・分析に絞って研究を遂行する。 ○前年度に引き続き,欧州自動車産業・企業の生産ネットワーク戦略ならびに国際分業態勢の変化・変容においてCASE革命の進展がどのようにかかわるのかという視角にもとづく研究の深化を図る。 ○急変する自動車産業環境を構造変化の規定因として重視する国際分業研究の精緻化を図るとともに,欧州自動車多国籍企業の「電動化」を軸とした競争戦略のゆくえを探りつつ,欧州自動車多国籍企業の国際的なネットワーク型生産・分業モデルの基本構造とその発展の方向性を明らかにし,国際経営を生産ネットワーク概念で捉える研究の前進を図ることに努力する。
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Causes of Carryover |
○前年度と同様,研究の遂行にあたり調査・統計資料の整理・データ入力作業を担う補助要員として想定した雇用(人件費)を節約できたこと,さらに前年度に引き続き深刻な状況下にある世界的な新型コロナウイルスの感染拡大による海外への渡航が禁止されたことによって,ヨーロッパ現地での調査活動を実施できなかったことが,主な理由である。 ○次年度に繰越し予定の助成金は,主に研究遂行に必要な文献史資料・事務消耗品等の購入と(新型コロナ感染が終息した場合には)ヨーロッパ現地調査活動の執行経費として使用する。令和3(2021)年度の研究費総額は,研究実施計画書に記載した研究経費残額を予定する。
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Research Products
(1 results)