2017 Fiscal Year Research-status Report
集合的記憶論とトラウマ記憶論の接合可能性の探究――記憶研究の学際的展開に向けて
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17K04144
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
直野 章子 広島市立大学, 付置研究所, 教授 (10404013)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 集合的記憶 / トラウマ記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は集合的記憶論とトラウマ記憶論が提起した認識論、理論・方法論的な課題を精査し、その有機的接合の可能性を探求することを通して記憶研究の再構築に寄与することを目指すものである。本年度は、①集合的記憶に関する主要な先行研究のうち、1980年代と90年代に発表された日本語および英語の論考を対象に、記憶の主体と出来事の実在性にかかわる論点を中心として、その傾向を分析した。英文論文と図書は膨大な数に上るために、The Collective Memory Reader (2011)、A Companion to Cultural Memory Studies (2010)を手掛かりとした。社会学における集合的記憶論は、出来事の実在性を問うよりも現存の社会集団にとっての過去の表象や認識、つまり社会統合や闘争における機能に力点を置く傾向にある。また、社会学が社会集団を記憶行為の主体とみなす傾向が強いのに対して、歴史学では個人を記憶行為の主体とみなす傾向にある。②トラウマ記憶に関しては、80年代は数が限られていたが、90年代に入って、ホロコースト記憶およびPTSDを論じたものを中心に英文論文が急増したため、主要な論集(Trauma: Explorations in Memory、Tense past 等)を手掛かりに分析の対象を選定した。精神分析に依拠する論考とPTSD概念に依拠する論考との間には、認識論的に違いがあり、とりわけ、過去の実在性、主体とエージェンシーに関する解釈に大きな隔たりがあった。③記憶に特化した発表ではなかったが、主体とエージェンシーに関する認識論にかかわる論点を含む発表を日本社会学会において行った。また、トラウマ記憶とPTSDの語られ方に関して、京都大学人文科学研究所のシンポジウムにて行った。さらに、トラウマ記憶論に関して論考を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分析対象とする先行研究について、集合的記憶論についてもトラウマ記憶論についても、主要なものはレビューすることができた。また、研究成果の発表も、研究会や学会、シンポジウムにおいて行い、トラウマをテーマとした論集に論考を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度については、2000年代に発表された主要な集合的記憶論とトラウマ記憶論の論考を分析する予定である。ただし、それ以前に比べても、研究論文や書籍の数が激増しているために、2010年までに発表された主要な論集を中心に分析することとする。他には、記憶研究に特化した学術誌Memory Studies(2008年刊行)での議論や今年度参照した記憶論のreaderを手掛かりに、対象を選定し、分析していく予定である。
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Causes of Carryover |
研究発表の旅費が他機関負担や他予算で執行されたために旅費が不要であったため。
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