2018 Fiscal Year Research-status Report
人身売買/取引をめぐる市民活動の変遷‐ネットワーク再構築に向けて
Project/Area Number |
17K04196
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
佐々木 綾子 千葉大学, 国際教養学部, 講師 (20720030)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大野 聖良 お茶の水女子大学, ジェンダー研究所, 特任リサーチフェロー (20725915)
島崎 裕子 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 准教授(任期付) (90570086)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 国際福祉 / 人身売買/取引 / 支援活動 / 市民活動ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、国際移動した人々が自由を奪われ搾取されるといった問題に直面した際、その解決のための市民活動を担ってきた人々に焦点をあて、「人身売買/取引」(搾取の目的で暴力や詐欺などの手段を用いて人を獲得、輸送、収受し、売春や労働などを強要する犯罪)という現象が日本の市民活動にもたらした意義とその変遷を明らかにすることを目的としている。 本年度は、分担研究者との研究会を3回実施し、また、「人身売買/取引」問題の解決のための市民活動を担ってきた人々複数にインタビューを実施した。とりわけ、JNATIP(人身売買禁止ネットワーク Japan Network against Trafficking in Persons)主催のシンポジウムに参加し、「人身売買/取引」や「現代奴隷制」の語られ方、問題への取り組まれ方に関してJNATIP編成時との変化を分析し、海外で実施されている学会や国内の別の研究者グループが実施する研究会に参加するなどして比較対象の視座を得た。これまでの研究成果の中間報告として、研究代表者及び分担研究者1名による学会発表を行った。 さらに、現在の日本社会では「人身売買/取引」としては認識されていないが、使用されている斡旋ルートやプロセス、手口などをみると「人身売買/取引」に限りなく近い、と思われる「留学生」の事例について調査し、とりわけ新しく技能実習制度の職種として追加された「介護」の領域において、「奨学金返済」や「授業料との相殺」という形で雇用され得る背景や、「特定技能」の候補者のリクルートと育成に関する知見を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
インタビュー項目については、研究代表者の所属する機関において倫理審査を経て承認され、2年目に実施予定であった国内の調査を実施した。数名へのインタビュー調査に留まったが、調査計画は進捗に合わせて練り直され、おおむね計画通りに進展していると考える。当初計画からの若干の遅れは、実施したインタビュー調査を通して研究の方向性に関して若干の変更が必要であると考えられたからである。出入国および難民認定法の大幅な改正や入国在留管理庁の設置などが決定するなど、マクロな社会情勢が大きく変化しつつあり、人の国際移動の流れや移動の理由、また移動する人々のリクルート、斡旋プロセスにも変化がみられるようになった一方で、警察庁が公表する「人身取引被害者」の内訳は「日本人女性」が最も多いという現状が3年継続している。「人身売買/人身取引」は国内の女性問題となってしまったようにも思われる現状から、送り出し国と受け入れ国の双方間に発生する複雑化する実情、ならびに不可視化する搾取の実態などにも、今後は留意し研究を進めていく必要があると判断した。このような計画の練り直しを迫られたことが若干の遅れの主な要因である。
|
Strategy for Future Research Activity |
3年目は、引き続き、国内の調査を実施しつつ、海外調査を計画している。世界的な潮流として trafficking in persons(人身売買/人身取引)は、modern slavery(現代奴隷制)とともに、SDGs(Sustainable Development Goals)やESG投資と結びつき、拡がりや連携のなかで問題解決の方向を模索する市民活動が展開されている一方、日本では、逆に政府の被害者認定者は「日本国籍」の「女性」に集中し、技能実習制度における人権問題、サプライチェーン上の労働者の人権問題、また特に日本国籍の人々の強制売春やAV出演の強要以外の性的搾取の被害形態、強制労働による被害については、別問題として切り離され、政策によって市民活動の連帯が阻まれているような状況が見られる。被害者支援や市民活動が進んでいる北米における調査を実施し、比較の視座を得つつ、今後の研究に関する示唆を得る予定である。
|
Causes of Carryover |
計画していた遠方への国内調査や海外調査を実施できなかったため、次年度使用額が生じた。次年度は、国内調査に加えてカナダへの調査を予定しており、その旅費としての使用を予定している。
|
Research Products
(6 results)