2018 Fiscal Year Research-status Report
重度知的障害者に対する「ケアの分配」をめぐる規範的研究
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17K04229
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Research Institution | Hokusei Gakuen University |
Principal Investigator |
田中 耕一郎 北星学園大学, 社会福祉学部, 教授 (00295940)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 重度知的障害者 / ケアの分配 / ケアの制度化 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、日本の障害学における<知的障害者>の「他者化」に関する論考を『障害学研究』第14号の特集論文として投稿するとともに、今後、申請者が<重度知的障害者>に対する「ケアの分配」に係る規範的研究に取り組んでいくための整地作業として、第二波フェミニズムにおける先行研究の知見を参照にしつつ、ケアの規範的含意とその制度化をめぐる論点を整理し、「ケアの制度化」の意味と意義を「ケアと正義の接合」という観点から検討を加え、さらに<重度知的障害者>の視座から提起されうる「ケアの制度化」をめぐる議論が、その起点と展開において異なる道程を辿るものの、フェミニズムが逢着した地平と重なりを見せることを確認した論考をまとめた。 本論考において、期せずして、フェミニズムからのアプローチと、<重度知的障害者>を視座に置くアプローチが「ケアの制度化」という地平において合致を見たわけだが、この合致を実践的意義において捉え返すとするなら、それはおそらく、<女性>と<障害者>に対する<仕組まれた対立>の克服と共闘の起点となりうる地平になるのではないかと申請者は考えている。 今後、この小論による「整地」の上に、<障害者>と<女性>、<支援者>や<行政>等から発せられた「ケアの分配」をめぐる声-それは、訴訟、交渉、呪詛、怒り、絶望、理念、スローガン、運動等において発せられた声であろう-に内在する規範的論点について、福祉の規範理論の引照点となったロールズの正義論や、そのロールズの基本財の分配構想を批判的に乗り越えようとしてきたセンやヌスバウムの規範理論がどのような解を導出しうるのかを検討し、さらに、これらの解が<重度知的障害者>の「ケアの分配」においてどのような意義と限界点を呈するのかを検証していきたい。 なお、本論考は2019年度の北星学園大学社会福祉学部紀要に投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
勤務校で役職(学部長)に就いているために、研究に費やすための時間が十分に確保できず、加えて、当初予定していた重度知的障害者の「ケアの分配」に係る当事者(行政・重度知的障害者・家族・支援者等)の主張に含意された規範的論点の抽出に多くの時間を要し、さらに、「ケアの規範的含意」に関する研究レビューを先行させたことから、研究の進捗は遅れている。 ただ、当事者(行政・重度知的障害者・家族・支援者等)の主張と論点がより先鋭的に提示される訴訟事例や行政交渉の事例のケース・スタディによる規範的論点の抽出は概ね終了しているため、今年度はこれらの論点を整理しつつ、先行のリベラリズムの規範理論が、適切なケアを平等に分配されなければ直ちにヴァルネラブルな状態に転落してゆく重度知的障害者の置かれている状況の特殊性、および重度知的障害者という存在そのものの多様性から要請されるケアの多様性・個別性において、どのような課題を内包しているのか、という点に焦点を当てて検討していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、ケーススタディを通して抽出し概念化した「ケアの分配」をめぐる論点について、ロールズの正義論において検討し、正義論の基礎となっているロールズの公正をめぐる枠組みからどのような解を導出し得るのか、また、そこに重度知的障害者へのケアの分配」においてどのような課題が内包されているのかを考察する。 2020年度はセンとヌスバウムのケイパビリティ・アプローチの枠組みが導出し得る<重度知的障害者>の「ケアの分配」に係る解とそこに内包される課題について検証したうえで、リベラリズムの分配的正義に係る規範理論がその理論的射程に包摂し得なかった<依存性>や<ケア>をめぐる議論を展開してきたテイラー、ヤング、フレーザー、キティらの論考を参照にしつつ、「ケアの分配」をめぐる試行的な規範モデルを提示したい。 さらに本科研費補助金研究の最終年度となる2021年度には、前年度に提示した規範モデルから、2019年度に抽出・整理した論点へ応答しつつ、重度知的障害者の「ケアの分配」に関するこの規範モデルの応答性能を検証したい。
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