2021 Fiscal Year Research-status Report
共生社会実現への生態学的視点による地域基盤ソーシャルワークの人材養成
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17K04247
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
神山 裕美 大正大学, 社会共生学部, 教授 (80339473)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生態学的視点 / 地域共生社会 / 包括的支援体制構築 / コミュニティソーシャルワーク / スーパービジョン / 地域固有の知 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、生態学的視点と地域基盤ソーシャルワークの理論仮説に基づき、行政・社協・関係機関・住民等と研究者のオンラインセミナーの報告と質疑応答等より、その展開を検証した。 オンラインセミナーを開催したA市の地域福祉計画は行政と社協の連携で計画的に推進され、ミクロレベルの相談窓口やアウトリーチによるニーズ発見と個別支援から、メゾレベルの多様な住民主体活動とその支援、及び地域包括ケアシステムへのつながり、そしてマクロレベルとして、地方自治体の行政計画や運営管理として、利用者・住民ニーズ主体のPDCAサイクルによる循環があった。また、それらを推進するA市の住民や行政・関係機関の方々の共通意識として、A市の歴史や文化的な理念があり、地域の方々の価値観や倫理観として受け継がれていた。生態学的視点と地域基盤ソーシャルワークの推進に、「地域固有の知」が関係することは、A市関係者の方々から多くの示唆を得た。 さらに、生態学的視点によるコミュニティソーシャルワーク(CSW)の人材養成について、B社会福祉協議会職員の研究協力を得て、イギリスのスーパービジョンモデルよりCSWスーパービジョンとの比較検討を行った。そして、共通点や相違点を抽出し、CSWスーパービジョンの改善点や提案を検討した。イギリスのスーパービジョンモデルは、日本の文化や国民性と合わない点がある。さらに、個人に焦点をあて環境との調整を図るソーシャルワークと、個人と地域の両者の支援をするCSWには、共通点も相違点もある。しかしながら、イギリスのスーパービジョンモデルは、地域基盤ソーシャルワークの人材育成のため示唆の多いモデルであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度も引き続き、コロナ禍により国内外の移動が制限され、所属組織からも国内外の出張が制限され、当初予定していた調査は、先方の負担も考慮し自粛した。調査計画は、全面的に変更し、オンラインセミナー開催と関係者からの協力を得て、報告内容や質疑応答、及びコメント等から本研究の理論仮説の検証を試み、新たな発見があった。さらに、イギリスのスーパービジョンモデルとの比較検討より、人材育成スーパービジョンについて、理論枠組みから具体的な方法まで多くの示唆を得た。 海外調査実施による研究仮説や地域基盤ソーシャルワーク人材育成の直接的な比較研究は、コロナ禍ゆえ叶わなかった。しかしながら、研究方法を実現可能な方法に変更し、日本の独自性や地域性に向き合う中で「地域固有の知(indigenous knowledge)」を具体的に把握できたことは成果のひとつだった。これらを通して、欧米で開発されたソーシャルワークスーパービジョンモデルや、コミュニティオーガナイジングの方法論の研究は、日本の独自性や地域性をふまえて、活用可能な点、現実的でない点、改善できる点等を考察する視点を養うことができた。 このように研究方法は、大幅に変更したが、研究目的である以下の3点(「生態学的視点と地域基盤ソーシャルワークの関連の理論枠組みの再検討」、「モデル市町村の地域福祉分野の生態学的視点による現状と課題把握と考察」、「共生社会実現への人材養成プログラムと支援方法の 改善・開発」)については、遠回りしたが概ね順調に進めることができた。また、地域共生社会政策においても、国の施策や法律改訂の内容も定まり、研究成果がその推進に貢献できるよう成果集約に努めている。
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Strategy for Future Research Activity |
コミュニティオーガナイジングの教育方法については、オンラインによるアメリカのソーシャルワーク教育者や研究者との情報交換を行うとともに、可能であれば現地調査を行い、日本に導入可能な点や、日本の文化や地域性に合わせた修正を行い、地域基盤ソーシャルワークの人材育成プログラムに追加していきたい。 そして、これまでの研究成果をふまえ、「共生社会実現への地域基盤ソーシャルワークの人材養成プログラム」案と、「支援マニュアル」案ではなく「スーパービジョン枠組みと具体的内容」案を作成し、市町村実務者や関係者への試行と評価より修正したい。具体的には、人材養成プログラムについては、①共生社会実現への研修プログラムの計画、②関係者からの助言、③プログラムの実施、④参加者アンケート等による評価と修正、の循環により進める。実施結果は、学会等で報告し、多分野からの議論を深めると共に、不足する点は改善・検討する。これらは、モデルプログラムを実施する関係者に負担をかけることなく、実務知識や技術の向上に役立つよう、説明し合意を得たうえで、先方の予定や意向に合わせて進める。人材育成プログラム、及びスーパービジョンの枠組みと具体的内容については、令和3・4年度の結果をふまえ学会発表や論文を作成し、多くの方々からの指摘や助言を受けていきたい。 さらに「生態学的視点と地域基盤ソーシャルワークの関連の理論枠組みの再検討」についても、研究成果を集約し学会等へ報告・投稿し、議論を深め、不足する視点を補い考察を深める。そして本研究成果が、地域保健医療や地方創生まちづくり等の多様な分野に、地域福祉研究の成果を発信できるよう取り組んでいきたい。
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Causes of Carryover |
令和3年度は、コロナ禍につき、国内外の出張が制限され、現地調査ができなかったので、令和4年度に実施したい。さらに、調査文献や資料等の追加と翻訳ソフト等を購入し、最新の動向把握と、調査の効率化を図りたい。また、コロナ禍により現地調査の実施が難しい場合は、オンライン活用による調査を工夫したい。
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