2018 Fiscal Year Research-status Report
Study of the structure and behavior of hydrogen on the defects near the surface of single crystal and thin film of TiO2
Project/Area Number |
17K05052
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
松本 益明 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (40251459)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 酸化物表面 / 赤外吸収分光法 / 核反応法 / チタン / 酸化チタン / 欠陥 / 水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度においては,2017年度に引き続き,チタン及び酸化チタン試料に対する水素の吸収・放出特性の研究を行った。チタンの酸化を防止するために超高真空中で純チタン薄膜上にパラジウムの薄膜を形成した試料を作製して大気中に取り出し移動した後,解析用真空槽に入れて核反応解析法(NRA)を用いた水素の深さ分析を行い,水素の吸収・放出特性を調べた。試料を水素に曝露しながらNRA測定をおこなうことで,薄膜中の水素が,初期において曝露量に比例して増加することを確認し,水素への曝露による吸収と加熱による放出を繰り返すことで,パラジウム薄膜を通してチタン中に水素が繰り返し再現性良く吸収・放出されることを確認した。室温での曝露において,チタン薄膜中の水素は深さ方向に一様に分布していることから,室温におけるチタン薄膜中での水素の拡散速度が非常に早いことが確認された。酸化チタンと水素との相互作用については,酸化チタン(ホワイトチタニア)ナノ微粒子を水素雰囲気中で加熱する事により作製されるブラックチタニアについて,その作製法の確立とNRAによる水素の深さ分析を行った。先行研究において,ブラックチタニアは黒化前に比べてバンドギャップが小さく可視光を吸収するため,光触媒としての効率が上がるという報告があり,表面の水素化がその原因であるとされている。熱フィラメントで水素を原子状にして試料に曝露することでアナターゼ型チタニアの効率的な黒化処理方法を確立し,作製したブラックチタニアナノ粒子にどの程度の水素が吸収されているかをNRAにより測定した。焼結により粒径の増大が見られるが,水素無しでは黒化は起きないため,水素の存在は必須であるが,ナノ粒子の水素の吸収量は水素の有無で大きく変化していないことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
東京大学生産技術研究所で使用している紫外線・X線光電子分光(UPS・XPS)装置において,排気用の油拡散ポンプに問題が生じて,検出器の半球型分光器に絶縁不良のトラブルが発生したため,分光器のオーバーホールをおこなった。原因の究明に時間がかかったが,半球型の電極を完全に分解して点検し,絶縁用の碍子を交換するなどの作業により,問題は解決されつつある。東京大学物性研究所の陽電子実験装置は老朽化しており,陽電子強度の減衰のため実験が難しい状況にある。陽電子源の交換には多大な費用が必要であるため,高エネルギー加速器研究機構や産業技術総合研究所等の他の研究施設の利用を検討している。また,東京大学タンデム加速器研究施設での核反応法の装置は順調に稼働しており,それを用いた研究を進めて成果が上がっているため,大きな問題とはなっていない。欠陥の評価については,陽電子を用いた方法を目指すが,走査型透過電子顕微鏡(STEM)とSTEMを用いたエネルギー分散型X線分析(EDX)法を利用することも考える必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度においては,2018年度におこなったチタン及び酸化チタンに対する水素の相互作用に関する研究をさらに進める。これまでチタン薄膜への水素の吸収・放出特性を核反応解析法により研究してきたが,加熱処理による影響を温度を変化させて行い,光電子分光法も用いることで,表面へのチタンの析出に対する加熱の効果を調べ、大気や酸素への曝露により表面のチタンを酸化させ,それが水素吸収・放出特性に与える影響について調べる。また,ブラックチタニアについては,2018年度の研究で水素の量自体はホワイトチタニアに比べて大きく増加していないことが確認されたが,水素の存在によって表面は明らかに変化していることから何らかの構造変化が起きていると考えられるため,光電子分光法によりその電子状態を測定し,ホワイトチタニアと比較する予定である。欠陥の評価には高エネルギー加速器研究機構もしくは産業技術総合研究所の陽電子装置を利用することを考えているが,これまでの研究で走査型透過電子顕微鏡(STEM)とSTEMを用いたエネルギー分散型X線分析(EDX)法も有効であることが分かってきたため,これらの手法も用いて評価したいと考えている。
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Causes of Carryover |
2018年度においては,オーストラリアのシドニーで開催された真空に関する国際会議(VASSCAA9)で無酸素パラジウムチタン薄膜への水素の吸収・放出特性に関する核反応解析法の研究に関する研究発表をおこなったが,発表を研究協力者の福谷教授におこなっていただいたため旅費の使用が少なくなった。共同研究のために学生を連れて東大や高エネルギー加速器研究機構へ赴く機会は多かったため,その交通費は必要であったが,消耗品等は研究施設のものが使えたため,若干少ない金額で済ませることができた。また,昨年度の未使用額が若干残っていたこともあり,2018年度の予算においても若干の未使用額が残ることとなった。2019年度は最終年度であり,高エネルギー加速器研究機構や産業技術総合研究所との共同研究が増え,研究成果の発表もおこなう予定であるため,旅費が多く必要になると予想している。
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