2018 Fiscal Year Research-status Report
量子ビームによる水素貯蔵材料の静的・動的構造変化のその場観察
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17K05114
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
岩瀬 謙二 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 准教授 (00524159)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 博隆 北海道大学, 工学研究院, 助教 (30610779)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | X線回折 / 小角散乱 / 水素貯蔵 / ナノ構造 / 中性子透過法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、Pr-Co系合金の水素と重水素の違いによる吸蔵放出特性変化・重水素化物の構造変化の有無、中性子透過実験(Bragg-edge測定)のためのセル仕様の検討を実施した。 中性子小角散乱測定では、水素化物相を測定するとバックグランドが上昇し正確なナノ構造解析が困難になる。バックグランドを軽減させるために重水素化物を用いて測定を行う。軽水素と重水素を用いて吸蔵放出特性に違いが無いか評価した。Pr-Co系合金について、軽水素から重水素に変更し、吸蔵放出特性を評価した。最大吸蔵量、プラトー領域、平衡水素圧に大きな違いはなく水素と重水素を用いた場合で特性に変化は確認されなかった。 標準的な水素吸蔵合金LaNi5の中性子小角散乱測定を実施した。吸蔵前の合金相、最大吸蔵時(重水素化物相)、放出後の試料について測定した。吸蔵前の合金相と放出後の小角散乱スペクトルは良い一致を示した。吸蔵放出過程において、ナノ構造が可逆的に変化することが得られた。最大吸蔵時と合金相のスペクトルを比較すると、界面構造に関する領域でスペクトルの傾きが異なる事が得られた。 中性子透過実験(Bragg-edge測定)のための試料セルの検討を行った。試料の厚さ、試料と検出器間の距離、ビーム透過部の窓材の検討のための予備実験を行った。窓材として、Alおよび石英ガラスが候補として挙げられそれぞれを用いて空セル測定を行った。ガス耐圧性を考慮して窓材の厚みを検討し、空セル測定を行った。バックグランドの値を比較した結果、石英ガラスを窓材に決定した。水素吸蔵前の合金試料を用いて試料の厚さ、試料と検出器間の距離を検討した。試料厚さ5mm、試料と検出器間の距離を80cmに決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は①R-Co系、R-Ni系合金の合成と同位体効果の有無②重水素化物の結晶構造 ③中性子小角散乱の測定条件を明らかにすることを目標とした。 ①に関して、R-Co系、R-Ni系(R = rare earth)超格子型水素吸蔵合金の合成条件を確立し、ほぼ単相試料を得られるようになった。軽水素と重水素を用いた吸蔵放出特性の評価を行った。中性子小角散乱測定では重水素化物相を用いるため、同位体効果の有無を確認する必要があった。吸蔵量、平衡圧等に関して、同位体効果は観察されなかった。 ②に関して、中性子回折を用いて重水素化物相の結晶構造を明らかにした。XRDの測定では金属格子のみの構造情報しか得られないため、水素の原子位置も考慮した構造情報が必要であった。吸蔵過程における結晶構造変化について、中性子回折とXRDの結果が良い一致を示した。結晶構造に関して、同位体効果は観察されなかった。ナノ構造に関しても、同位体効果は無いことが予想される。中性子回折によって得られた構造情報は、中性子小角散乱測定に反映させる予定である。 ③に関しては、水素吸蔵合金の中で標準的な試料LaNi5の中性子小角散乱測定の結果から、測定時間、ビームスリット等の測定条件の検討を行った。中性子小角散乱のデータ解析には、X線小角散乱によって得られた結果を反映した。中性子透過実験の予備測定により、試料ホルダーの形状、試料厚み等の測定条件を決定した。以上のことから、現在までに進捗はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度には中性子小角散乱測定と中性子透過実験(Bragg-edge測定)を実施する。 R-Co系、R-Ni系合金について、PCT測定装置を用いて水素が残留している水素化物相(重水素化物相)を作製する。PCT測定装置を用いることによって、正確な水素残留量を把握する。中性子小角散乱の測定では、重水素化物相を用いる。金属原子と重水素の情報を含んだ表面構造を明らかにする。水素吸蔵前、最大水素吸蔵時、水素残留時のそれぞれ水素の濃度の異なる試料を準備・測定し表面構造の変化を捉える。最大吸蔵時と水素残留時の比較を詳細に行い、残留時の表面構造の特徴を明らかにする。表面構造の解析時には、X線小角散乱の結果を反映させる。 Bragg-edge測定から、波長と全断面積値(Total cross section)の相関を求める。測定の際には、軽水素を吸蔵させた水素化物相を測定する。水素吸蔵前、最大吸蔵時、水素残留時の3試料を測定する。パルス中性子測定によって、短波長領域から長波長領域の測定を行う。全断面積値の変化から、水素の動的挙動を検討する。全断面積値の違いが、波長に依存する特徴が得られることを予想している。 XRD,中性子回折、小角散乱測定、Bragg-edge測定から得られた静的構造・動的構造変化を相互にリンクさせ、水素が残留する機構を明らかにする。
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Causes of Carryover |
平成30年度に北海道大学LINAC施設において、試料ホルダーの形状、試料厚み等の測定条件を検討するための予備実験および水素化物の測定を計画していたが、予備実験で確保したビームタイムを全て使用してしまったため、水素化物相の測定ができず、次年度使用が生じた。水素化物相の測定は令和元年度に実施することにしたため、試料準備等の費用として使用する。
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Research Products
(2 results)