2020 Fiscal Year Research-status Report
ニュートリノ実験および原子炉モニターのための水ベース液体シンチレータの開発研究
Project/Area Number |
17K05467
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
鈴木 州 神戸大学, 理学研究科, 助教 (20243298)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ニュートリノ / 水チェレンコフ検出器 / 水ベース液体シンチレーター |
Outline of Annual Research Achievements |
ニュートリノは、物質との反応確率の低さから、実験を行うにあたっては、反応事象数を増やすために検出器を大型化する必要がある。大型ニュートリノ検出器の代表的なものの一つがスーパーカミオカンデのような大型水チェレンコフ検出器である。スーパーカミオカンデはこれまでいくつもの成果をあげているが、それは水チェレンコフ検出器の特徴(水であるため大量に用意しやすい、チェレンコフ反応を用いているためニュートリノの到来方向がわかるなど)を生かしたものであった。だが、水チェレンコフ検出器では、原子炉ニュートリノ(正確には反電子ニュートリノ)のような低エネルギーニュートリノの検出はできない。 低エネルギーニュートリノ検出のために、KamLAND、Double Chooz、Daya Bayなどは、液体シンチレーターを大量に用いて実験を行ってきた。だが、液体シンチレータでは、ニュートリノの到来方向がわからず、また、既存の液体シンチレータは、可燃性で有害な有機溶媒をベースとしているため、大量の取り扱いに対する安全対策が困難である。 そこで本研究では、水をベースとした、不燃性で汚染性も少なく環境に優しい液体シンチレータの開発を目指している。これは、水チェレンコフ反応も利用できるので、ニュートリノの到来方向も測定できることになる。ベースとして水を用いることの問題点は、発光体が水に不溶であることであった。本研究では、界面活性剤を用いることで発光体を水に溶解させることを試みた。その結果、界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウムのほか、市販の洗剤といった身近なものも使用可能であることがわかり、光量は少ないものの、有意なシンチレーション光が観測されるに至っている。また、研究期間がそれなりに経過したので、経年変化についての知見も得られるようになってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年度は、新型コロナウイルス禍のため、自宅勤務が増え研究現場に行く機会が減り、研究時間が大幅に減ることとなった。また、大学の授業が遠隔となったため、それに対応するために時間と労力をかけることになった。このように研究時間が短縮された上、集中した時間も取れず間欠的になったため、研究効率も悪くなってしまった。 以上のような経緯で進捗が遅れ、最終的には研究期間の再延長をするに至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究室整備の際、誤って解体されてしまったシンチレーション光測定システムの復旧が終わり、以前の結果を再現できることが確認された。本研究では、一応有意なシンチレーション光が観測されているが、実用するにはまだまだ光量が少ないというのが現状である。今後は当初計画通り、より発光量の多い水ベース液体シンチレータの開発を目指していく。 並行して、液体シンチレーターにガドリニウムをドープして、中性子検出を試みる。ニュートリノ実験においては、電子ニュートリノと反電子ニュートリノの識別ができることが望ましい。反電子ニュートリノは、陽子との逆ベータ崩壊反応から生じる陽電子と中性子の遅延同時観測によって識別できる。陽電子の検出は、周囲の電子との対消滅反応から来るガンマ線を捉えることで比較的容易である。中性子は、それを吸収して励起状態となった原子核の脱励起から来るガンマ線を観測することで検出できる。中性子吸収のためには、その吸収断面積が大きいガドリニウムが使用されることが多い。そこで今後の研究では、本研究において開発された水ベース液体シンチレータにガドリニウムをドープし、中性子検出が可能かどうかを中性子線源を用いて調べることを考えている。 さらに、研究期間がそれなりに経過したので、液体シンチレータの経年変化を調べていく。検出器を大型化するにあたって光の透過度の測定や、より低エネルギーでの使用も考えた低放射化シンチレータの開発も将来的には必要な研究である。
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Causes of Carryover |
【現在までの進捗状況】でも述べたが、新型コロナウイルス禍で自宅勤務が増えたため、研究の現場に行く機会が減り、研究に割く時間が大幅に減ることとなった。また、大学の授業が遠隔となったので、それに対応するために時間と労力がかなり割かれた。研究時間が短縮された上、集中した時間もとれず、研究効率も悪くなった。 以上のような理由で研究が遅れ、研究費をほとんど使用することがなかったため、次年度使用額が生じた。 今年度の使用計画は、測定機器、および、解析用コンピュータの更新、液体シンチレータ作成のための試薬購入、出張が可能ならばそのための旅費などに充てたいと考えている。
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