2017 Fiscal Year Research-status Report
DNA高次構造と遺伝子活性のON/OFFスイッチング:実験・理論・計算による探求
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17K05615
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
剣持 貴弘 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (10389009)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ゲノムサイズDNA / 遺伝子発現 / DNA高次構造転移 / 生体ポリアミン / DNA一分子観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,ゲノムサイズの長鎖DNAの高次構造と遺伝子発現との関係を明らかにすることを目的としている.遺伝子発現について,これまでのところ,鍵と鍵穴的な特異的な制御因子の作用により遺伝子発現の自己調節が行われているとの考えに基づいて説明しようとする研究が多数を占めていたが,2 万個余りの遺伝子について,細胞分化にみられるようなロバストなON/OFF のスイッチングについて, 細胞内に各特定の遺伝子はほぼ全てが単一であり,制御因子の数ゆらぎを考慮すると, このような従来の考えでは説明が困難である. 本研究は,DNA の高次構造転移が,遺伝子発現のロバストなON/OFF を引き起している可能性について, DNA一分子計測と遺伝子発現実験を軸に, 構造と機能の両面から計測を進める検証を行った. 本研究では,長鎖DNAとして,166キロ塩基対をもつT4 DNAを用い,溶液中で正の電荷をもつ生体ポリアミンの添加濃度を調節することで,凝縮・非凝縮といったDNAの高次構造を制御し,DNAの構造および状態は,蛍光顕微鏡鏡によるDNA一分子計測と原子間力顕微鏡による計測を実施することで確認した.また,ルシフェラーゼアッセイを用いた遺伝子発現実験を実施した.実験結果から,DNAが凝縮する直前で,最も遺伝子発現量が多くなり,ポリアミンがない場合と比べて5倍程度,遺伝子発現が促進されることを明らかにした.一方,DNAが完全に凝縮した場合は,遺伝子発現が完全に阻害されることも明らかにしている.原子間力顕微鏡観察結果から,遺伝子発現量が最大値の場合,DNAの高次構造はセグメント同士の平行配列が増加し,RNAメッセンジャーによる遺伝子読込が容易な構造なっていること,また,完全に凝縮した場合は,RNAメッセンジャーがDNAに作用できない構造になることが明らかにされた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
生命体に広く存在するポリアミンは,癌や細胞分裂などの生命現象と密接に関連しており、例えば癌患者ではその濃度が高くなることが知られている.しかしながら,ポリアミンの生体での役割については不明な点が多く残されていた.本研究では,ポリアミンの濃度の上昇に伴い,DNAから作り出されるタンパク質(遺伝子発現)の生成速度が5倍程度に増強されること,そして,更なるポリアミン濃度の増大に伴い,この生成速度がゼロ(遺伝子発現が阻止される)ことを明らかにした.このようなタンパク質合成の促進と阻害が,ポリアミンによって調節されるメカニズムの解明にも成功した.すなわち,ひも状のDNA分子の3次元的な広がり(高次構造)が,たんぱく質生成に対しての促進・阻害をもたらしていることを解明した.従来は,DNAと生体内因子との “鍵と鍵穴”的な作用が,DNAからのタンパク質生成のスイッチング制御を担っていると考えられていたが,本研究によって,DNAとポリアミンとの電気的・幾何学的相互作用に基づく遺伝子発現のON/OFFスイッチング機構を新たに見出した.本研究は、ポリアミンンの濃度によってDNA分子の3次元的な広がりが変化し,この構造変化がタンパク質生成のON/OFFのスイッチングの働きをすることを明らかにしたもので,癌などの病気のメカニズム解明やiPS, ES細胞などによる再生医療分野にも,今回の知見は重要な貢献をするものと期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで,生体ポリアミンである正の3価のスペルミジンや正の4価のスペルミンが単独で存在する環境下でのゲノムサイズの長鎖DNAの3次元の空間的な広がり(高次構造)と遺伝子発現の関係性について研究を行ってきた.生体内の細胞環境を考慮すると,細胞内には,それぞれ異なる価数の陽イオン(カチオン)が存在する.DNAの遺伝情報の読込メカニズムを解明して,遺伝子発現のON/OFFのスイッチング機構を明らかにするためには,複数のカチオンが存在する環境下でのDNAの高次構造転移について,理解する必要がり,今後は,スペルミジンとスペルミン,その他,マグネシウムやカルシウムといった細胞内に存在するカチオンが共存する条件での,DNAの高次構造変化を蛍光顕微鏡,および原子間力顕微鏡を用いて, DNAの一分子観察を実施する.また,DNAと荷電粒子との相互作用については,対イオン凝縮理論があり,本研究では,この理論に対イオンの併進エントロピーを取り入れることによって,対イオン凝縮理論モデルを発展させた物理モデルを構築する.物理モデル構築後は,このモデルをもとに,分子動力学法に基づくシミュレーション解析を実施し,複数のカチオンが共存する環境下でのDNAの高次構造の経時変化を詳細に追跡する.本研究は,実験,理論,シミュレーションから,遺伝子発現のON/OFFスイッチング機構にアプローチしていく.
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Causes of Carryover |
今年度購入した、DNA濃度測定用の超微量分光光度計が、当初予定していた額より、安く購入できたため。次年度使用額については、翌年度分と合わせて、DNA試料、遺伝子発現キット、光学部品の購入代に充てる。
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Research Products
(6 results)