2018 Fiscal Year Research-status Report
DNA高次構造と遺伝子活性のON/OFFスイッチング:実験・理論・計算による探求
Project/Area Number |
17K05615
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
剣持 貴弘 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (10389009)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | DNA高次構造 / 遺伝子発現 / 生体ポリアミン / DNA一分子観察 / 対イオン凝縮 / イオン交換過程 / ゲノムサイズDNA |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ゲノムサイズDNAを用いて、その高次構造が遺伝子発現にどのように寄与しているかを明らかにすることを目的とする。本研究では、カチオンである生体ポリアミンを添加することによって、DNAの高次構造を制御し、蛍光顕微鏡および原子間力顕微鏡を用いてDNA高次構造観察を実施している。遺伝子発現については、ルシフェラーゼアッセイを用いて、定量的な評価を行っている。これまでの研究結果から、固く凝縮する直前のDNAセグメントが平行配列している構造が最も遺伝子発現が促進され、固く凝縮すると遺伝子発現が完全に阻害されることを明らかにした。現在は、ポリアミンの価数、炭素鎖数、構造の違いが、DNAの高次構造にどのように作用し、遺伝子発現に寄与するのかについて、研究を展開している。遺伝子発現の炭素鎖数依存性については、これまでの実験結果から、炭素鎖数が3のものが、遺伝子促進作用が最も顕著であることを明らかにした。この場合のDNAは、ゆるくねじれた環状構造をもっている。最も遺伝子発現の促進作用が弱いのは、炭素鎖数6のもので、この場合、DNAセグメントが固く平行配列したバンドル構造をもつことを明らかにした。また、DNA高次構造に関するポリアミン価数の寄与については、対イオン凝縮理論に、イオン交換過程と取り入れた物理モデルを構築しつつあり、実験で観測される、2価と3価のカチオンが共存する環境における、カチオン競合効果について、実験結果を適切に再現できることを示した。今後は、モンテカルロおよび分子動力学シミュレーションも取り入れ、DNA高次構造転移に関して、より詳細な調査を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
炭素鎖数の異なる2価のポリアミンである、1,3-ジアミノプロパン(C3)、カダベリン(C4)、プトレシン(C5)、1,6-ジアミノヘキサン(C6)を用いて、ポリアミンの炭素鎖数の違いがDNAの遺伝子発現にどのように寄与を調査した。さらに,原子間力顕微鏡によりDNA微細構造の観察し、DNA高次構造と遺伝子発現の関係性を評価した。ルシフェラーゼアッセイを用いた遺伝子発現評価実験では、炭素鎖数に関係なく、ポリアミンの添加が、遺伝子発現活性に関して、ポリアミンが低濃度の場案、発現が促進され、高濃度の場合、阻害されることを明らかにした。実験結果から、C3が最も促進作用が強く、C4、C5 という順番となり、ポリアミンがない場合に比べて、9~12倍程度の遺伝子発現の促進を観測した。一方、最も炭素鎖数の多いC6については、3倍程度の促進作用を示した。原子間力顕微鏡を用いた、DNAの高次構造観測結果から、C3,C4,C5存在下では,濃度に関係なくDNAの高次構造変化は見られず,環状のDNAがゆるくねじれた構造が観察された。一方、C6存在下では、DNAのセグメントが平行配列したバンドル構造が観察された。遺伝子発現活性の促進度合いが最も小さいC6存在下では、DNAがバンドル構造をとることを明らかにした。この結果は、DNA鎖が固く集合したバンドル構造では、RNAポリメラーゼによる転写翻訳が阻害されることを意味する。ポリアミンは真核生物,原核生物に共通して存在する生体分子であり、これまでも細胞活性との関連で数多くの研究が行われているが、電荷が同じで異なる炭素鎖数のポリアミンンがDNAの高次構造にどのように作用し、遺伝子発現にどのように寄与しているのかについては、本研究によって、初めて明らかにされた知見である
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、ゲノムサイズの長鎖DNAの高次構造に関して、蛍光顕微鏡および原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、実験的に評価してきた。また、カチオンによるDNA高次構造転移について、対イオン凝縮理論にイオン交換過程を取り入れた物理モデルを構築し、理論的なアプローチも展開している。遺伝子発現については、ルシフェラーゼアッセイを用いて、定量的に評価している。これまでの研究結果から、DNAが固く凝縮する直前のDNAセグメントが平行配列している構造が、RNAポリメラーゼによる遺伝子読み取りを容易にし、遺伝子発現を促進することを明らかにした。DNAの高次構造についての微細構造は、AFMを用いて観察を行っているが、AFM観察では、DNAを基盤上に貼り付けて観察を行うため、溶液中をブラウン運動する3次元構造をもつDNAとは、直接対応していないという課題がある。今後は、溶液中のDNAの3次元構造を詳細に評価するために、モンテカルロおよび分子動力学シミュレーション解析を実施する。シミュレーションコードは、本研究グループが開発したものを基にして、対イオンの併進エントロピーの効果を取り入れた解析を進める。シミュレーション結果とAFM観察による微細構造とを比較検討することによって、遺伝子発現のON/OFFスイッチングに、DNAの高次構造がどのように寄与しているのかについて明らかにする。
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Causes of Carryover |
実験に必要となる、DNAサンプルやルシフェラーゼアッセイ・キットなどの購入費用が、当初予定していた額に比べて、低額になったため、当該助成金が生じた。翌年度分の助成金と合わせて、実験に必要な生化学試料、蛍光顕微鏡および原子間力顕微鏡などの光学部品、学会参加費用、論文投稿費に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)