2017 Fiscal Year Research-status Report
イオントラックコアによる微視的複雑体系の放射線作用解明研究
Project/Area Number |
17K07022
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
甲斐 健師 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究副主幹 (70403037)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 放射線工学・ビーム科学 / イオン飛跡 / DNA損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線と物質の相互作用研究において、PHITSのような汎用放射線輸送計算コードは、マクロな複雑体系における線量評価と共に、ナノスケールの微視的空間内で誘発される放射線作用研究への適用も期待されている。これは、放射線作用自体が物質のミクロな物理現象であるにも関わらず、その主体となる低エネルギー電子の放射線作用が未解明要素を多く含むためである。本研究では、未開発であるPHITSの低エネルギー電子挙動計算機能を開発し、微視的複雑体系における放射線作用を計算可能にする。その計算機能を利用し、これまで計算が困難であったイオン照射によるDNAの複雑損傷機構解明を目指す。更に、様々な物質に対する電子衝突断面積データを開発することで汎用性を拡大させ、本計算機能の波及効果を狙う。 平成29年度は、PHITSにおける低エネルギー電子挙動計算機能を、電子密度スケーリングにより様々な物質に適用可能にした。本計算機能は低エネルギー電子の詳細挙動を解析可能であるが、計算時間が膨大になる。そのため、計算負荷の少ない従来の計算機能とエネルギー・空間領域に対する切り替え機能も開発することにより計算時間の短縮も見込めた。これにより、電子線による微視的複雑体系における放射線作用が解析可能になった。本計算機能をイオン照射に拡張するため、イオン飛跡構造解析コードの機能・動作確認を実施し、イオントラックコアにおける放射線作用解明に向けた準備段階にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)複雑体系への適用:これまで開発してきた低エネルギー電子挙動計算機能は標的が水のみに適用可能であった。ナノスケールの微視的複雑体系を標的とすると、低エネルギー電子であっても、様々な物質を何度も横断する可能性が高い。電子が異なる物質境界を通過すると、電子と物質の相互作用確率が変化する。PHITSはこのような境界値問題を解決する機能を有する。そこで、電子挙動計算機能においても、PHITSの境界横断機能を対応づけ、簡易的に電子密度スケーリングにより様々な物質へ適用可能にした。これにより、PHITSの低エネルギー電子挙動計算機能を複雑体系へ適用可能にした。 2)イオン衝突計算機能との結合:物質にイオンを照射すると、10 keV程度のデルタ線が生成されるほか、10 eV程度の低エネルギー2次電子が無数に生成される。ナノスケールにおける物理現象の主役は、この低エネルギー2次電子であるが、現状のPHITSでは低エネルギー2次電子の発生は無視する。これが原因となり、イオントラックコアの放射線作用を解明できない。これらの問題を解決するため、PHITSにイオン飛跡構造解析コード(KURBAC)をPHITSに実装することになった。現在、KURBACの計算機能を確認している段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
PHITSにイオン飛跡構造解析コード(KURBAC)を実装し、イオン衝突計算機能を開発する。KURBACは標的が水のみに対応しているが、様々な物資にも適用可能にする。 1)DNA損傷への適用:PHITSに実装するイオン飛跡構造解析コード(KURBAC)は、放射線DNA損傷研究において多くの研究成果を挙げている。しかしながら、KURBACは任意の複雑体系には対応不可である。PHITSは複雑体系を取り扱うことが可能であり、本研究成果により、低エネルギー電子まで複雑体系に適用可能になっている。そこで、PHITSにKURBACを実装し、任意の複雑体系に適用可能にする。これにより、放射線生物影響を誘発すると考えられる複雑な放射線DNA損傷の生成機構解明を目指す。 2)様々な物質への適用:イオントラックコアは放射線作用が非常に高く、DNA損傷への適用以外にも、様々は研究分野において、その特性解明が期待されている。その中で、シリコンにおけるイオン照射効果は半導体ソフトエラーの研究において非常に重要であることが指摘されている。そこで、本計算機能を半導体にも適用可能にする。
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Causes of Carryover |
物品購入額として120万円計上していたが、競争入札の結果、予定よりも安価に計算器が購入できた。その一方、年度末になり、計算結果を効率よく解析するための計算解析ソフトが必要となった。これにより、今年度に計算解析ソフトを購入する予定である。
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