2018 Fiscal Year Research-status Report
Structural studies on meta-stable conformations of bisected glycan
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17K07303
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長江 雅倫 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任研究員 (60619873)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 糖鎖生物学 / 構造生物学 / X線結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
糖鎖は単糖が重合した生命鎖で多様な配列および構造を取る。本研究の目的は糖鎖の配列と構造の相関を構造生物学的に明らかにすることであり、代表的な糖鎖としてN結合型糖鎖の一種、バイアンテナ型糖鎖を研究対象としている。2018年度はバイアンテナ型糖鎖を基質としてN-acetylglucosamine (GlcNAc)を転移する糖転移酵素、N-acetylglucosaminyltransferase-V (GnT-V)の反応メカニズムの解明に取り組んだ。GnT-Vはがん悪性化に関与する糖転移酵素として世界中で研究されているが、その詳細な反応メカニズムは不明である。興味深いことにGnT-Vの反応は、同じGlcNAc転移酵素であるGnT-IIIによって阻害される。GnT-IIIはGnT-Vと同様にバイアンテナ型糖鎖を基質とするが、異なる位置にGlcNAcを転移する。本来ならばGnT-IIIの反応はGnT-Vの反応に支障を来たさないはずである。我々は、この阻害機構はGnT-IIIによって生じる生成物糖鎖の構造がGnT-Vの基質として不適格な構造をしていることに起因すると予想した。つまり、GnT-Vの基質認識機構を明らかにすれば、本研究の目的である糖鎖の配列と構造の相関の解明に大きく寄与すると考えた。そこで我々は、GnT-V触媒ドメインについて動物細胞の発現系を用いて大量に調製し、単体および基質糖鎖との複合体の結晶構造をX線結晶構造解析によって明らかにした(Nagae et al., Nature Commuinications 2018)。得られた構造を見ると、GnT-Vの活性中心は深い溝になっており、糖鎖が溝に突き刺さるような状態で結合していた。この糖鎖構造を見るとGnT-IIIの生成糖鎖では取りにくい構造であった。つまり溝の形状によって糖鎖を選別している新しい機構が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はN型糖鎖の一種であるバイアンテナ型糖鎖を研究対象として、糖鎖の配列と構造の相関を明らかにすることを目的として平成29年4月に開始した。当初の目的は、バイアンテナ型糖鎖から糖鎖付加によって生じる三つの生成糖鎖、バイセクト型糖鎖、beta1-6分岐型糖鎖、ダイシアロ型糖鎖、それぞれの構造の違いを明らかにすることであった。2017年度に我々はバイアンテナ型糖鎖およびバイセクト型糖鎖との配列と構造の相関をX線結晶構造解析および分子動力学シミュレーションによって明らかにした(Nagae and Mishra et al., Glycobiology 2017)。さらに2018年度にはバイアンテナ型糖鎖からbeta1-6分岐型糖鎖を生成する糖転移酵素、N-acetylglucosaminyltransferase-V (GnT-V)の基質認識機構をX線結晶構造解析によって明らかにした(Nagae and Kizuka et al., Nature Communications 2018)。この研究によって、GnT-Vによるバイアンテナ型糖鎖の基質認識が明らかになっただけではなく、阻害効果を示すバイセクト型糖鎖がなぜGnT-Vに作用しないかが明らかになった。これは本研究の目標である糖鎖の配列と構造の相関が生理機能に及ぼす影響を視覚的に明らかにできた予想外の成果であった。現在はbeta1-6分岐型糖鎖に特異的に結合するレクチンであるPhytohemagglutinin-L (PHA-L)を用いてbeta1-6分岐型糖鎖との複合体の構造解析およびダイシアロ型糖鎖と複数のレクチンとの複合体の構造解析に取り組んでいる。これによって研究計画に掲げた四種類の糖鎖の配列と構造の相関が明らかになる予定であり、研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はバイアンテナ型糖鎖およびその生成物である三種類のN型糖鎖、バイアンテナ型糖鎖、beta1-6分岐型糖鎖、ダイシアロ型糖鎖、の合計四種類の糖鎖の立体構造を明らかにすることである。既に2017年度および2018年度の先行研究によってバイアンテナ型糖鎖およびバイセクト型糖鎖に関する配列と構造の相関について充分なデータが得られた。そこで2019年度はbeta1-6分岐型糖鎖に特異的に結合するレクチンであるPhytohemagglutinin-L (PHA-L)を用いてbeta1-6分岐型糖鎖との複合体の構造解析に取り組む予定である。またそれと並行してダイシアロ型糖鎖と複数のレクチンとの複合体の構造解析にも取り組む予定である。これらの研究に取り組むにあたってボトルネックになるのは構造解析に必要な量の高純度な糖鎖を確保することである。我々は既に共同研究者である東北医科薬科大学の山口芳樹教授よりbeta1-6分岐型糖鎖を供給いただいている。またダイシアロ型糖鎖に関しても伏見製薬所より既に購入している。このため研究を遂行する準備は完了している。既にPHA-Lの結晶化に取り組んでおり、基質未結合ながら回折強度データ収集に適した良質な結晶の作成に成功している(未発表データ)。今後は基質との複合体の結晶化に向けて取り組む予定である。またダイシアロ型糖鎖についても結合レクチンを和光純薬工業より入手済みであり、予備実験を既に開始している。これによって研究計画に掲げた四種類の糖鎖の配列と構造の相関が明らかになる予定である。さらに研究計画には含めていなかったがバイアンテナ型糖鎖から生成する別の糖鎖であるbeta1-4分岐型糖鎖に関しても非常に興味深いデータが得られつつある(未発表データ)。こうした研究を遂行することで当初の予想を上回る成果が得られられるように取り組む所存である。
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Research Products
(6 results)