2018 Fiscal Year Research-status Report
鉄腐食性硝酸塩還元菌の系統分類学的多様性および金属腐食発生機構の解析
Project/Area Number |
17K07546
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
飯野 隆夫 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 専任研究員 (50550323)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 微生物腐食 / 金属腐食 / 天然ガス回収施設 / 鉄酸化 / 硝酸塩還元菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度純粋分離した6株に加え、千葉県山武市の天然ガス回収施設に設置されたM-26チュービング (TBG) の内部付着物から5株を新たに純粋分離した。分離株11株の分子系統位置を明らかにするため、16S rRNA 遺伝子塩基配列に基づく系統解析を行った。分離株の16S rRNA遺伝子塩基配列を決定した後、ARBを用いて系統解析を行い、近隣結合法 (NJ 法) を用いて系統樹を作成した。その結果、NT017株、NT023株、NT026株、NT033株、NT049株、NT050株の計6株はBacteroidales目に属し、NT019株、NT024株、NT040株の3株はClostridiales目に属した。NT041株とNT045株はそれぞれSynergistales目とSpirochaetales目に属した。これら分離株の近縁種との16S rRNA遺伝子塩基配列の相同性は87.2-99.8 %であった。8株に至っては、その相同性が98.5 %以下であることから新種の細菌であると示唆され、TBG内には未知の微生物が多数生息していることが明らかとなった。続いて、Bacteroidales目に属した6株を対象に、金属鉄 (Fe0) を電子供与体とした金属鉄腐食試験を行った。電子受容体には硝酸塩もしくは硫酸塩を用いた。前培養液を接種して30日間培養した後、試験液中の全溶出鉄量をフェナントレン法にて定量した。その結果、硝酸塩を電子受容体としてNT050株を培養した時、無菌区の3倍の鉄イオンが溶出しており、NT050株が金属鉄を腐食することが明らかとなった。硫酸塩を電子受容体とした時に、金属鉄の腐食は見られなかった。残りの5株は、いずれの培養条件下でも金属鉄の腐食は見られず、鉄腐食能を有していないと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の目標は、分離株の分子系統位置と金属鉄 (Fe0) に対する鉄腐食能を明らかにすることを目標とした。本申請課題では、5-10株の微生物株を純粋分離すること当初目標としたが、最終的に目標を上回る11株を得ることができた。分離株の系統解析は全て終了し、多様な系統の分離株を取得できたことが明らかとなった。また、分離株11株中6株の金属鉄腐食試験を終え、金属腐食性硝酸塩還元菌を1株を得るに至り、概ね予定どおりの達成度である。
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Strategy for Future Research Activity |
金属鉄腐食試験未実施の5株を対象に、金属鉄 (Fe0) を電子供与体とした金属鉄腐食試験を行い、分離株の鉄腐食能の有無を明らかにする。鉄腐食性硝酸塩還元菌の取得が主たる目的であるが、電子受容体には硝酸塩の他、硫酸塩も用いる。前培養液を接種して30日間培養した後、試験液中の全溶出鉄量をフェナントレン法にて定量し、鉄腐食能を判定する。金属鉄腐食能を有した分離株を選抜した後、これら鉄腐食性硝酸塩還元菌の金属鉄腐食発生機構の解析するため、金属鉄 (Fe0)、硝酸塩、酵母エキスの組成の異なる培養条件の下で金属鉄腐食試験を実施する。前培養液を接種して30日間培養した後、試験液中の全溶出鉄量、Fe2+とFe3+の比率をフェナントレン法にて、硝酸塩の減少をイオンクロマトグラフィーを用いて定量する。また、カソード水素の発生をガスクロマトグラフィーで分析し、鉄腐食時の分離株の代謝を解析する。以上を平成31年度の目標とする。平成32年度には分離株により腐食した金属鉄片の構造解析、平成33年度には鉄腐食発生メカニズム解明に向けた新規鉄腐食性硝酸塩還元菌の生理・生化学性状の解析を計画している。
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Causes of Carryover |
理由: 平成29年度に実施したサンプリングで良好な試料を収集することができ、サンプリング回数を減らすに至った。収集した試料からの微生物の培養も良好であったことから、培養等にかかる費用も最小限に抑えられた。
使用計画: 今後実施予定の腐食鉄の構造解析や新規細菌の化学分類分析等は高額である理由から、当初予定では分析回数が制限されていた。そこで、これらの分析の解析検体数を増やし、金属腐食発生メカニズム解明のためのデータの精度向上を図る。
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