2020 Fiscal Year Research-status Report
鉄腐食性硝酸塩還元菌の系統分類学的多様性および金属腐食発生機構の解析
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17K07546
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
飯野 隆夫 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 専任研究員 (50550323)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 微生物腐食 / 鉄腐食 / 天然ガス回収施設 / 鉄酸化 / 硝酸塩還元菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄腐食菌の至適の鉄腐食条件や生理・生化学的特性を明らかにする為、鉄腐食能を示したMariniphaga sp. NT050株と鉄非腐食性のProlixibacter sp. NT017株の形態観察や生理・生化学試験、化学分類試験を行った。NT017株は通性好気性、非運動性、無芽胞、カタラーゼ陰性、幅0.3-0.5 um、長さ3.4-6.3 umのグラム陰性桿菌であった。至適の生育温度、pH、塩濃度はそれぞれ37-40℃、pH 6.5-7.0、3 % (w/v) であった。増殖には炭素源 (D-グルコースなど) を必須に要求した。NT017株は酸素を電子受容体に利用したが、硝酸塩を利用できず、この点は鉄腐食性のProlixibacter denitrificansと性質が異なった。16S rRNA遺伝子に基づく系統解析を行った結果、NT017株はP. denitrificansに最も近縁であったが、その相同性は98.4 %と低かった。デジタルDNA-DNAハイブリダイゼーションによるNT017株とP. denitrificans MIC1-1株のDNA-DNA相同性は49.4 %であった。以上の 結果から、Prolixibacter sp. NT017株はProlixibacter属の新種であると考えられる。一方、Mariniphaga sp. NT050株は基礎培地での増殖がわずかで明確な結果を得ることができなかった。基礎的な培養条件の見直しを行った結果、Mariniphaga sp. NT050株は他のMariniphaga属細菌や鉄腐食性のP. denitrificans MIC1-1株と異なり、炭素源にD-グルコースを利用することができない為に、増殖が不十分であることが明らかとなった。しかし、D-マルトースを培地に加えることで増殖を良化することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度から平成30年度にかけて、天然ガス回収施設の貯水槽中に生息する微生物の集積培養および純粋分離を行なった。最終的に、当初目標の5-10株を上回る11株を得ることができた。系統的にもBacteroidales目、Clostridiales目、Spirochaetales目、Synergistales目と多様な系統の分離株を取得できた。 令和元年度に、これら11株の金属鉄腐食試験を実施し、Mariniphaga sp. NT050株が硝酸塩存在下で金属鉄 (Fe0) を腐食することが明らかとなった。Mariniphaga属細菌による微生物腐食は初事例であり、Prolixibacteraceae科としては2属目の事例となった。 令和2年度には、鉄腐食性を示したMariniphaga sp. NT050株と鉄非腐食性のProlixibacter sp. NT017株の生理・生化学試験を行った。Prolixibacter sp. NT017株は通性好気性のグラム陰性桿菌で、増殖には炭素源 (D-グルコースなど) を必須に要求した。NT017株は酸素を電子受容体に利用したが、硝酸塩を利用できず、鉄腐食性のProlixibacter denitrificansと性質が異なっていた。Mariniphaga sp. NT050株は15種類の糖類発酵性試験を実施した結果、炭素源にD-グルコースを利用することができず、炭素源をD-マルトースに置き換えることで増殖が良化することが明らかとなった。 培養の難度から令和2年度内にMariniphaga sp. NT050株の生理・生化学性状試験が完了しなかったが、培養方法の改善が見られたことから、今後、結果を得ることが可能である。コロナ禍に伴う数ヶ月の出勤停止期間があったことを加味すれば、概ね予定どおりの達成度と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
増殖の改善が見られたMariniphaga sp. NT050株を対象に、鉄腐食発生メカニズム解明に向けて、形態情報、生理・生化学性状等の解析を目標とする。形態学的特徴の解析のため、位相差顕微鏡観察、透過型電子顕微鏡 (TEM) 観察を行い、細胞形態、大きさ、鞭毛や芽胞の有無を特定する。生理機能解析のために、前培養した供試菌株を各種試験培地に接種し、増殖の可否、基質や代謝産物の増減を分析する。生育温度範囲、生育pH範囲、生育塩濃度範囲、利用できる電子受容体 (硝酸塩、硫酸塩、酸素など)、電子供与体 (Fe0、Fe2+、水素、硫化物など)、炭素源を明らかにする。増殖の可否は分光光度計による濁度の増加を分析する。基質や代謝産物の増減は、液体クロマトグラフィー (HPLC) やガスクロマトグラフィーを用いて定量分析する。 至適の生理特性に基づいて、鉄腐食性NRBの鉄腐食発生機構を解明する。人工海水培地を基礎培地として、鉄腐食性NRBの生理特性に基づいて電子受容体や炭素源などの培養条件を設定する。供試菌株の前培養液を人工海水培地に接種した後、30日間培養する。培養後、フェナントレン法、イオンクロマトグラフィー、オートアナライザー、ガスクロマトグラフィー等を用いて、培養液中の全溶出鉄量、Fe2+とFe3+の比率、カソード水素の利用、電子受容体、代謝産物の減少などを定量解析し、微生物腐食を検証する。植菌区と無菌区を比較することで、鉄腐食能の有無と試験液中の成分変化を比較する。特徴的な鉄腐食を示した鉄腐食性NRBに対しては、X線回折、走査型電子顕微鏡 (SEM)、エネルギー分散型X線分析装置付き走査型電子顕微鏡 (SEM-EDS) 等を用いて、腐食産物の物質同定、腐食鉄片の表面構造観察、断面構造観察と元素分布の分析を実施する。
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Causes of Carryover |
理由: 平成29年度に実施したサンプリングで良好な試料を収集することができ、サンプリング回数を減らすに至った。収集した試料からの微生物の培養も良好であったことから、培養等にかかる費用も最小限に抑えられた。また、コロナ禍に伴う出勤停止により実験が停止した為、研究費の使用に遅れは生じた。 使用計画: 今後実施予定の腐食鉄の構造解析や新規細菌の化学分類分析等は高額である理由から、当初予定では分析回数が制限されていた。そこで、これらの分析の解析検体数を増やし、金属腐食発生メカニズム解明のためのデータの精度向上を図る。
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