2019 Fiscal Year Research-status Report
イネ・ダイズの土壌病害を予防するための病原菌モニタリング法の確立
Project/Area Number |
17K08171
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
戸田 武 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (00506529)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 土壌伝染性病原菌 / イネ / ダイズ / Pythium / 群集解析法 / 生育阻害 |
Outline of Annual Research Achievements |
土壌伝染性菌類は多くの作物に被害を起こしている。病害を予防するために病原菌をモニタリングすることが理想的であるが、土壌伝染性による病害では極めて難しい。申請者は、土壌の病原菌のモニタリングに利用できる技術として、植物の根から菌類のDNAを網羅的に検出する「群集解析法」を開発した。本研究では、群集解析法によって、主要作物であるイネ・ダイズに病害を起こす土壌伝染性の病原菌モニタリング法を確立する。 秋田県の栽培現場の合計10地域から土壌を採取し、イネを播種して生育後の根から菌を分離した結果、Pythium属菌が多く含まれていた。1地域において分離菌を群集解析法によって種を判別したところ、Pythium属菌130菌株の種は少なくとも13種が存在した。イネから分離された13種のうち、イネ苗に強い病原性を示す種Pythium arrhenomanesが全体の約4%の割合であった。他にイネ苗に病原性があると報告された種は2種分離されたがP. arrhenomanesと同じく低い割合であった。残り10種は病原性があると報告されておらず、分離された菌株の90%以上を占めた。10種のうち、分離割合の高い7種のPythium属菌を接種試験に使用したところ、7種ともにイネの生育を阻害した。簡易的にイネ科雑草の根から群集解析法によってPythium属菌の検出したところ、イネから分離された種とは4種が異なっていた。 これらのことから、土壌病原菌のモニタリングには、雑草の根を調べるよりも、採取土壌でイネを生育させて分離した菌の種を調べることが正確と考えられた。さらに、 水田にはイネの初期生育を阻害するPythium属菌が多く存在するため、他の9地域も同様にイネの生育を阻害する菌を調べるとともに、種の存在する割合を調べる必要があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
イネ科雑草から検出された種とイネから分離された菌の種が一致しているか群集解析法を使用して調べたところ、1地域(A地域)における結果は、種に類似性があるものの、イネの生育に影響を及ぼす種の有無に違いが生じた。また、A地域で分離された130菌株のPythium属菌は、13の種が存在し、そのうち9種はイネ科雑草から群集解析法によって検出された種に含まれていた。しかし、分離されたPythium属菌の残り4種はイネ科雑草から検出されない種であった。さらに、これら13種のPythium属菌のうち、イネの病原菌は3種ほどであった。残りの病原性が知られていない10種のうち7種はイネの生育を阻害した。うち、2種はイネ科雑草から検出されていない種であった。この結果を踏まえて、イネの場合は、採取した土壌で生育したイネの根から菌を分離し、種の割合を調べる必要があると考えられた。 また、二地域(B、C地域)で分離されたPythium属菌50菌株ずつを分離して、種を調べたところ、両地域ともにA地域で分離された種とは全て異なっていた。A-Cの3地域ともに分離されたPythium属菌はダイズにも病原性を示す種が含まれていた。これらのことから、イネから分離されたPythium属菌におけるイネおよびダイズへの生育阻害の程度を比較することによって、各地域におけるイネおよびダイズへの生育適性をPythium属菌の観点から分析できると考えられた。 現在、残り7地域で分離されたPythium属菌の種を群衆解析法によって調査している。年度内に全地域の土壌を利用してイネから分離した菌の種を判定する予定であったが、次年度では全10地域におけるPythium属菌の種を明らかにし、各種の菌株を接種試験に用い、イネおよびダイズの生育阻害を明らかにする。
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Strategy for Future Research Activity |
1地域において分離されたPythium属菌13種は、病原菌として知られる3種の他に、10種は病原菌として報告されていない。10種のうち7種を接種試験に使用したところ、イネの初期の生育を阻害する結果が得られた。これらのことから、本研究によって、Pythium属菌の多くの種が我が国で普及している直播栽培に大きく影響を及ぼすことが、新たに考えられた。 本研究では、これらの結果を踏まえて、10地域の土壌で生育したイネの根から分離したPythium属菌50菌株の種を群集解析法によって明らかにするとともに直播栽培への影響も調査する。 分離された種の割合を各地域間で比較し、種の分布状況を明らかにする。分布状況の結果と種の存在する環境とを比較して、Pythium属菌の各種が生育するのに適した環境を明らかにする。 分離された菌株を接種試験に使用し、Pythium属菌各種のイネおよびダイズの生育阻害する程度を数値化する。結果を参考に、各地域における種の割合と、各種の生育阻害の程度とを比較して、各地域の土壌がイネの直播栽培に対する影響をPythium属の観点から分析する。結果から、各地域のイネの直播栽培に加え、ダイズの生育への適性を明らかにする。 得られた結果から、イネの直播栽培への影響を含めて、土壌伝染性病害のモニタリングの指標となるデータに必要な材料として、どのような土壌および病原菌を調べる必要かを明らかにする。
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Causes of Carryover |
共同研究で採択されたプロジェクトが3課題増えたことで、研究に費やす時間を確保することが極めて難しい状況となった。そのため、実験の進行が遅れて全額の予算の執行に至らなかった。 この遅れた状況を踏まえ、分離されたPythium属菌の種の同定、接種試験および種の分布解析に必要な実験に使用する試薬などを購入する。
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