2018 Fiscal Year Research-status Report
3次元空間イメージングによる肺静脈心筋自発活動の発生と伝播に関わる機能分子の解明
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17K08607
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
行方 衣由紀 東邦大学, 薬学部, 准教授 (30510309)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 薬理学 / 三次元イメージング / 肺静脈心筋 / 自動能 / 心房細動 |
Outline of Annual Research Achievements |
肺静脈心筋は電気的に不安定であり自発活動を示すことが知られている。肺静脈での異常な電気的興奮が心臓に伝わると心房細動などの不整脈になることが示されており、肺静脈の性質を明らかにすることは重要である。本研究の目的は、この肺静脈の電気的自発活動に焦点を当て、組織の立体構造を保持した肺静脈標本に高速3次元共焦点顕微鏡法を適用し、細胞から組織レベルまでの総合的視点から、自発活動の発生および伝播機序を解明することである。今年度は細胞内カルシウム動態や循環器疾患の発症と深く関連すると予想される血管収縮性内因性ペプチドのAngiotensinⅡの肺静脈自発活動の発生機序についてカルシウムイオンの観点から検討した。 高速スキャン型共焦点レーザー顕微鏡を用いてモルモット単離肺静脈心筋細胞のカルシウム動態を観察した。約40%の細胞において、AngiotensinⅡは自発的なカルシウムトランジェントを誘発した。カルシウムトランジェント発生時には、筋小胞体からの局所的なカルシウム放出を示す、カルシウムスパークの発生頻度も上昇した。この局所的なカルシウム濃度の上昇によって、細胞膜上のナトリウム・カルシウム交換機構が活性化し、カルシウムトランジェントが誘発されたと考えられる。またAngiotensinⅡによるカルシウムトランジェントおよびカルシウムスパークの発生はAT1受容体遮断薬であるLosartanおよびIP3受容体遮断薬のxestospongin Cによって抑制された。すなわちAngiotensinⅡはAT1受容体を介して筋小胞体上のIP3受容体を活性化し、カルシウムオシレーションを誘発したと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、肺静脈心筋組織近傍の自律神経や血管内皮細胞、平滑筋等から放出されると考えられる神経伝達物質・ホルモンの影響により自発活動の発生機序の解明を目的として、AngiotensinⅡのカルシウム動態に対する影響を検討した。AngiotensinⅡは血管収縮性の内因性ペプチドであり、心臓負荷を増大し、リモデリングを促進することで心房細動の発生に関与することが知られている。実際、臨床現場でもAngiotensinⅡ受容体遮断薬の持続的な処置が心房細動の発症を抑制することが報告されている。しかしながら、心房細動の発生源となる肺静脈心筋に対するAngiotensinⅡの直接作用には不明な点が多い。本年度は高速スキャン型共焦点レーザー顕微鏡を用いて、肺静脈心筋にAngiotensinⅡが直接作用してカルシウムオシレーションを誘発しうることを見出した。またLosartanやACE阻害薬のcaptoprilによってAngiotensinⅡ未処置下で誘発された自発活動が抑制されたため、肺静脈組織内でAngiotensinⅡが産生されている可能性が示唆された。これらの結果は、組織の立体構造を保持した肺静脈標本に高速3次元共焦点顕微鏡法を適用し、細胞から組織レベルまでの総合的視点から、自発活動の発生を解明する必要性をさらに強く示唆するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
組織レベルでの膜電位やカルシウムイオンのオシレーションの伝播を高速スキャンよって2次元および3次元空間的にミリ秒単位で捉えることを目指す。さらに組織レベルの検討においては、神経伝達物質・ホルモンの影響により自発活動の発生機序や伝播様式が変化するか否か、細胞内カルシウム動態や循環器疾患の発症と深く関連すると予想される交感神経伝達物質noradrenaline、副交感神経伝達物質acetylcholine、angiotensin II、aldosteroneなどの影響下で検討を行う。さらに免疫組織学的手法を加え、自発活動に関与する分子の存在部位や比率を3次元空間的に解析し、自発活動の発生頻度との相関を取ることで、自発活動の易発生部位とその機序を明らかにすることを目指す。
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