2017 Fiscal Year Research-status Report
ウイルス感染宿主因子としてのチロシンキナーゼAblの新しい役割
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17K08656
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
定 清直 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (10273765)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
千原 一泰 福井大学, 学術研究院医学系部門, 准教授 (00314948)
竹内 健司 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (40236419)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | チロシンキナーゼ / C型肝炎ウイルス / ゲノム編集 / アダプタータンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はウイルスや真菌・結核菌などの病原体に対する新しい宿主因子として、チロシンキナーゼAblとSyk、さらにその関連分子の役割について研究を進めてきた。本研究課題の計画調書提出後、ゲノム編集(CRISPR/Cas9システム)によりSTAT1~6とIRF9を欠損する培養肝細胞を作成し、STAT1がインターフェロンλによるHCVの複製抑制に不可欠であることを解明し報告した(Yamauchi, et al. Sci. Rep. 2016)。平成29年度は、Ablを欠損する培養肝細胞(Huh7.5細胞)を樹立した。今後はこれまでの成果をさらに進めて、Abl欠損細胞と対照細胞を用いて、ウイルスの感染から子ウイルス出芽までの生活環への影響について検証する。さらにAblの下流に位置するインターフェロン刺激遺伝子(ISG)を同定し、できればゲノム編集により新規ISG欠損細胞を作成する。また本年度は実施できなかったウイルス粒子形成調節におけるチロシンキナーゼの役割についての生化学・組織学的解析を行う予定である。 また現在研究を進めているAbl会合分子アダプタータンパク質3BP2の役割について、ゲノム編集により培養単球細胞を用いて作成したさまざまなチロシンキナーゼ、3BP2欠損細胞を樹立し、インターフェロンγによるマクロファージへの分化誘導後に抗原刺激に対する応答性の違いを明らかにし報告した(Chihara, et al. Sci. Rep. 2017)。今後は新たに変異型3BP2ノックインマウスなどの動物モデルを作成し、解析を続ける予定である。 さらに結核菌受容体であるMincleがマスト細胞上に発現することを見出し、MincleがチロシンキナーゼSykを介して、結核菌に対する免疫応答を行っていることを明らかにし報告した(Honjoh, et al. Sci. Rep. 2017)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書では平成29年度にウイルス粒子形成過程の生化学的解析、細胞内ウイルス分布の組織学的解析を行う予定であったが、我々が報告したウイルス粒子形成過程のほかに、新たにウイルス侵入過程においてもAblが関与するとの報告が他のグループからなされた(Min, et al. Front Microbiol 2017)。そこでAbl欠損Huh7.5細胞の樹立を優先し、2種類のガイドRNAを用いてそれぞれノックアウト細胞を樹立した。 従来われわれは肝臓組織に発現するもう一種類のチロシンキナーゼSykがHCVの非構造タンパク質NS5Aと相互作用する可能性を指摘している(Inubushi, et al. J Gen Virol 2008)。その点を鑑み、Ablに加えてSykのノックアウトも試みたが、Huh7.5細胞ではウエスタンブロットで検出できるほどのSykが発現しないことが明らかとなった。 またチロシンキナーゼAbl結合タンパク質として知られるアダプタータンパク質3BP2については平成30年度に計画していた単球系の培養細胞であるU937細胞を用いた実験が予想以上に進展した。貪食の受容体(FcRγ)、チロシンキナーゼ(Syk、Hck、Src)、3BP2の各欠損細胞、さらに3BP2欠損細胞に野生型、リン酸化部位変異型、タンキラーゼ耐性変異型3BP2を発現させた細胞をマクロファージに分化させ、貪食作用やサイトカイン産生を解析するとともに、遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイで解析し、論文として報告した(Chihara, et al. Sci. Rep. 2017)。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度も当初の研究計画に従い、以下のように推進する。 まず新たに樹立したAbl欠損細胞と対照細胞を用いて、ウイルスの感染から子ウイルス出芽までの生活環への影響について検証する。さらに感染後にインターフェロンを投与することにより、インターフェロン刺激遺伝子(ISG)についてマイクロアレイにより網羅的解析を行い、定量PCRやプロテオーム解析によりAbl制御性の新規ISGを同定する。できればゲノム編集により新規ISG欠損細胞を作成し、Abl阻害薬であるイマチニブの効果についても同時に検証する。また本年度は実施できなかった生化学的・組織学的解析を実施する。 アダプタータンパク質3BP2についてはゲノム編集による変異型3BP2(Sykによるチロシンリン酸化部位である183番目のチロシン残基フェニルアラニンに置換したもの)のノックインマウスを樹立し、同時に樹立される3BP2欠損マウスとともに、広く免疫系細胞の分化・成熟や免疫応答に対する影響について解析を行う。
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Causes of Carryover |
原因として最も大きな要因は、当初の研究計画書で平成29年度に実施予定であったウイルス粒子形成過程の生化学的解析、細胞内ウイルス分布の組織学的解析を30年度に移動させたことである。 研究を開始後に、我々が報告したウイルス粒子形成過程のほかに、別の過程においてもAblが関与するとの報告が他のグループからなされた。そこでAbl欠損Huh7.5細胞の樹立を優先し、2種類のガイドRNAを用いてそれぞれノックアウト細胞を樹立したため、生化学的解析、細胞内ウイルス分布の組織学的解析に用いる試薬等の購入を行わなかった。その代わりに、研究計画全体としては、平成30年度に計画していた単球系の培養細胞であるU937細胞を用いた実験が予想以上に進展した。次年度は、平成29年度に実施しなかったこれらの解析を実施する予定である。
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