2021 Fiscal Year Research-status Report
児童虐待予防に繋がる保健師の記録様式標準化と記録に関する教育プログラム開発・評価
Project/Area Number |
17K12590
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Research Institution | Hirosaki Gakuin University |
Principal Investigator |
柳澤 尚代 弘前学院大学, 看護学部, 教授 (10310369)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅原 京子 山形県立保健医療大学, 保健医療学部, 教授 (40272851)
吉本 照子 千葉大学, 大学院看護学研究科, 教授 (40294988) [Withdrawn]
清水 洋子 東京女子医科大学, 看護学部, 教授 (90288069)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 保健師 / 支援記録 / 児童虐待予防 / チェックリスト / 検証 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)保健師の支援記録に関する文献検討を行った結果、2003年以降の国内論文で保健師の記録を扱っているものはないこと、1993年以降発刊された公衆衛生看護学の教科書の記録に関する記述量は年々減少していることを確認した。また、8自治体の保健師が記載した記録を分析した結果、支援の根拠である収集した情報やアセスメントの記述が不十分であること、支援の有効性が保証されていないこと、思考過程に沿った項目間の整合性や関連性の不明確さ及び分類の不適切さなどの記録の実態と課題を明らかにした。 2)公的文書である保健師の支援記録は、支援の継続性・包括性・質の保証に資する重要なツールである。支援記録のツールは、思考過程の明示などの「記録様式の標準化」と、「情報の共有を促進するシステム」の整備が不可欠であり、虐待予防に繋がる多機関・多職種連携の強化を推進する。本研究は、開発した教育プログラムにより、保健師自身が支援記録について「何が、なぜ、問題なのか」を振り返ることで支援記録を分析し、記録改善の手がかりを得ることを可能とするものである。 3)経験的学習理論に基づく教育プログラムは、①-④つのサイクルから構成した。①経験:あるべき記録の理解をもとに自他の記録を読み、自分の記録についてあるべき記録とのずれや特徴に気づくなどの経験が重要である。②振り返り:「何が、なぜ、問題なのか」を考える。教育プログラムの自己評価演習を通して、記録改善の手がかりを得ることが可能になる。③教訓:手がかりから、今後の教訓を導くことが可能になる。④以後の記録に生かす:「これから、こんな風に記録を書いていこう」という、具体的教訓を得ることができる。 4)記録様式を活用するために開発したチェックリストは、「個人の振り返り」および演習を通した「組織的な振り返り」にも活用できるツールとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)虐待予防の支援においては、緊急性・生命を守る観点から多職種がチームでタイムリーな支援を求められており、かつ協働での支援を保証する支援記録の共有が不可欠となることから、児童虐待リスクのある対象に関わった経験を持つ保健師の記録への認識とその構造化に着目した。母子保健活動の中でも児童虐待に着目した理由は、「児童虐待リスクに対する支援は今日の保健師活動の重点項目であること、児童虐待リスクに関する情報や判断は慎重を要する事柄であり、記録に関しても保健師が悩みや困りごとを抱えていることが多いと予測されること、児童虐待リスクに関する支援記録は、法的証拠として採用される可能性もあり、専門職として記録のあり方を検討する必要があること」である。 2)本研究にて、記録様式の「チェックリスト」を開発した。その項目は、「①支援の目的は明確か、②支援の目的に沿って事実が収集できているか、③事実と意見は区別できているか、④観察したことを数値化しているか、⑤アセスメントは生活者の視点から捉えた支援課題が明確に書かれているか、⑥支援行為の根拠となる事実が記載されているか、⑦保健師の支援に対する評価を把握し記しているか、⑧保健師の支援計画が記されているか、⑨保健師活動の実践の思考と行為の一連の過程にそった文脈のつながりがあるか、⑩組織のルールにそって記述し保管されているか」である。今後は、これらの項目をベースに、虐待予防に特化した記録のチェックリストの検証と評価を目指すものである。 3)コロナ禍において、自治体における研修会が延期や中止となっていることから、開発した教育プログラムの評価については、計画通りに進んでいない状況にある。今後、対面による研修会の開催が進捗状況を速める鍵となる。
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Strategy for Future Research Activity |
1)国は、2019年7月には「データヘルス時代の母子保健情報の利活用に関する検討会」の中間報告において、妊婦検診や乳幼児健診に関する、標準的な電子的記録様式の考え方と具体的な様式を示している。乳幼児健診については「標準的な電子的記録様式」に加えて、「最低限電子化すべき情報」を策定し、本人が確認することに適さない情報(児童虐待疑いに関する情報など)は、これに含めないとの判断をしている。そして、将来的には乳幼児期・学童期の健康情報および18歳以降の健康履歴との一元的な連携の模索を発表した。今後、多機関・多職種連携のツールとして支援記録を活用するには、法律施行に伴う社会的な問題 とケアの質向上という記録様式の標準化の2つの課題解決が鍵となる。実践レベルでは、2002年に栁澤らがPlan/Do/Seeの記録様式を提案しているが、全国的に標準化された記録様式としての普及率は低い。そのため、今後「PDS様式」の支援記録様式の普及率を高めることが課題となる。一方、研究レベルでは保健師活動の思考過程を可視化することで、プロセス・アウトカム評価が可能となり、ケアの質保証に結びつくと考えられている。ツールを活用することは、ひいては虐待予防の個別支援や支援チームで記録を通して情報の共有化を図ることにつながり、支援の質向上に寄与するものとなりうる。 2)具体的進捗方策 本年度中に、「児童虐待予防に繋がる保健師の記録様式標準化と記録に関する教育プログラム開発・評価」に関する研究のまとめを行うことを目指したい。
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Causes of Carryover |
令和2年~3年のコロナ禍において、自治体における研修会が延期もしくは中止になっていることから、データ収集が計画通りに進んでいない。そのため、次年度に予算を使用する計画を立てた。本年度中に、研究のまとめを終えることを目指したい。予算は、学会でのワークショップの企画・実施、研究会の開催などを予定している。
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