2021 Fiscal Year Research-status Report
Research on the effect of cognitive bias on earthquake risk on household's decision making, disaster prevention and urban policy
Project/Area Number |
17K12619
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
宅間 文夫 熊本学園大学, 経済学部, 准教授 (80337493)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山崎 福壽 日本大学, 経済学部, 教授 (10166655) [Withdrawn]
浅田 義久 日本大学, 経済学部, 教授 (70299874)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 震災リスク / 認知バイアス / 防災・都市政策 / 密集市街地 / 外部費用 / ヘドニックアプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は,(1)ヘドニックアプローチを援用した不動産価格関数の推定,(2)世帯の防災行動の意思決定に関するアンケート調査,(3)世帯の防災行動の意思決定に関する実証分析と実証分析を活用した政策提言,の3つのサブテーマに分けることができる。R3年度までに,(1)に関しては文献調査やいくつかの予備的な調査を進めてきた。研究代表者は地価ベースの宅間(2007)や家賃ベースの安田・宅間(2017, 2018a,2018b,2020)においてヘドニック価格関数を推定し,また宅間(2018,2020,2021)では戸建住宅やアパート,マンション等を対象とした賃料・価格関数をヘドニック分析で包括的に推定している。一方,土地利用の側面を考慮したヘドニック価格関数の推定は小谷・浅田(2017, 2018)で,区分所有建物に限定されるが建て替えの困難さが資産価値に及ぼす影響はYamazaki and Sadayuki(2018)で検討している。特に,宅間(2007)や安田・宅間(2017, 2018a,2018b,2020)は,震災リスクが及ぼす影響を定量化している。(2)に関しては,宅間ら(2017)で世帯の転居意思決定の要因について検証し,中川ら(2020)でCOVID-19下における居住地・就業地の変化をコホート要因を考慮して検証し,山崎・中川(2020)で人々が合理的に行動しても危険な地域へ居住することを明らかにし,山崎・中川(2020)や生田・浅田(2019)では持家・借家選択の意思決定に関して検証を行い,加えて関連文献レビューを参考にして,アンケート調査票設計を検討している。(3)に関しては,世帯の防災行動の意思決定に関する実証分析は,Ehrlich and Beckerの消費者行動モデルを実証理論の枠組みとした文献調査を進めつつ,山崎(2019),浅田・行武(2021)は税制・諸政策が世帯の意思決定を通して住宅市場に及ぼす影響を検討し,山崎・中川(2020)は災害リスクの上昇とともに保険料が上がる災害保険が任意加入の場合には災害危険地域への居住を抑制することが困難なことを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
初年度は研究代表者が後期半年間の在外研究に赴くことになったため,研究体制上で若干の遅れが生じた。初年度の研究計画は,世帯の防災行動の意思決定に関する文献調査やその実証理論の検討,アンケート調査の設計が中心であり,それぞれ研究代表者及び研究分担者が分担していたため進度は遅れるものの研究は進めたが,その遅れをH30年度までに完全に取り戻すことができず,当初の研究計画から遅れが生じた。また本課題は,震災リスクと不動産価格の関係を実証し,その推定結果を基に,世帯の防災行動に関するアンケート調査を実施する計画であったが,当初,H30年度に利用予定であった不動産売買データが提供機関のデータ提供の方針変更から利用することができなくなった。このため,R元年度は,十分な規模の不動産価格の代替データを検討する等,研究計画の抜本的な見直しが必要となり,それに伴いアンケート調査の再設計が必要となり,補助事業期間の延長を行った。R2-3年度は,新型コロナウイルス感染症の拡大及び社会経済の急速な変化が世帯の移住意思決定に大きな影響を及ぼすことが予想されるため,COVID-19下における居住地・就業地の変化をコホート要因を考慮した検証で行い,これを踏まえて,アンケート調査の設計を再検討するなど,研究計画の大幅な変更を必要とし,補助事業期間の再延長を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
R4年度は,前半は,COVID-19下における居住地・就業地の変化をコホート要因を考慮した検証結果を踏まえて,これまで検討した実証理論とアンケート調査項目の間の整合性の検討および認知バイアスを適切にコントロールすることを目的としたアンケート調査票を再設計する。アンケート調査では,回答者に震災リスクの客観的指標を示すことが,本課題のキーとなる。このため,ヘドニックアプローチを援用した実証分析を行い,震災リスクの客観的指標を市場データから金銭換算値として推定する。アンケート調査は,当初計画では,不動産売買データを用いて推定される木密地域の損失(外部費用)を提示された標本Aと提示されなかった標本Bを比較検証することで,認知バイアスを適切にコントロールした分析を行う計画であったが,不動産売買データを利用できなくなったことから,売買データの代わりに地価公示データを活用する標本A,Bに加えて,地域危険度指標(東京都)が提示された標本Cを考慮した分析を追加する。これは,地域危険度が市場取引を通して不動産価格に影響を及ぼしているという既存研究の知見(顧ほか, 2011)から,不動産売買データを利用できないことに起因する市場取引を通じた影響を考慮するためである。前半のアンケート調査票の再設計にはこの点を反映することが重要となる。後半は,アンケート調査の実際を行い,標本A,B,Cを用いて,認知バイアスを適切にコントロールできるように精緻化した実証モデルを用いた実証分析を行う。なお,その際には実証分析から得られる推定結果等の検討から得られる知見をデータベースの再構築にフィードバックさせて,実証分析の精緻化を行う。精緻化された実証モデルは,防災や都市政策の評価に用いられ,認知バイアスが意思決定にもたらす歪みが政策評価に与える影響を検証し,震災・都市政策の実務への提言を検討する。
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Causes of Carryover |
R3年度は,新型コロナウイルス感染症の拡大による影響及び研究遅延による研究計画の大幅な変更等に伴い,補助事業期間の延長を行った。理由は二つある。一つは,コロナ禍の特殊な状況下及びその変移過程下において,世帯の移住行動に変化が生じることは容易に推測できるが,それがアンケート調査結果を通して本研究目的に及ぼす影響が推測できないことである。二つは,コロナ禍において,研究代表者及び研究分担者ともに,学務激増のため十分な研究時間を確保できず,研究代表者の所属先が変わり,研究分担者との研究打ち合わせが困難になったことである。特に一点目は,本研究の目的達成には十分な考慮が必要であるため,コロナ禍の移住行動について検討を行いつつ,アンケート実施時期を繰り下げることにした。以上の理由から,次年度使用が生じ,繰越額はR4年度に実施する大規模なアンケート調査の実査費用に用いられる。
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Remarks |
宅間文夫, 「用途別建物の価格・賃料・リフォーム価値等に関する実証研究」,『株式会社タス委託研究報告書』, 2021.3.
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