2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K13414
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
小林 久美子 法政大学, 文学部, 准教授 (30634117)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / フォークナー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「教養小説」の枠組みを用いて「成長」という主体形成のプロセスを描いたフォークナーの代表的作品群の分析を通じて、過去偏重には留まらない作者の時間性への眼差しの内実を詳らかにするものである。 初年度にあたる本年は、1)教養小説とモダニズム文学の呼応関係 2)フォークナーの南部小説における「社会」の表象、これら2点を主たる関心事項として、関連する批評書や研究書の文献調査を行うことで、フォークナー作品における教養小説的な時間感覚についての概念構築を行った。その成果の一部は論文として2018年5月に発行予定の雑誌『フォークナー』に掲載が確定している。 本論はフォークナーを、同時代の日本の作家である徳田秋声と比較考察するものである。徳田秋声とフォークナーはともに「断絶」の時代を経験した作家であるが(前者は維新、後者は南北戦争の敗戦)、前者は「庶民」を小説のヒロインと据えることによって、維新期に生じた断絶を埋め合わせるような漸次的時間感覚を作品内で表現し得たのに対し、フォークナーの故郷である米国南部には、前近代と近代の架橋となるような「庶民」は存在していなかった。本論では、埋め合わせが不可能な断絶を抱える南部において、フォークナーがどのように漸次的時間を表現し得たかを、『八月の光』を通じて検証した。徳田秋声とフォークナーの比較検討は類例の無い試みであり、日本における米文学研究ならではのアプローチの一例を示すことができたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標は関連分野の文献調査を行い、フォークナー作品の教養小説的側面における時間感覚を探るための概念構築を試みることであった。本目標は徳田秋声作品における時間性と『八月の光』を比較検討することでおおむね達成できたように思う。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きフォークナー作品の教養小説的時間性についての考察を深める。2年度にあたる平成30年度では、10月に米国、11月に国内の学会にて考察の結果を口頭発表としてまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
(理由) 本研究は海外文学を扱うため、洋書を注文することが多い。海外の書店からの注文は時間がかかることが多く、注文が年度内であっても、配達は次年度になるということがままある。 (使用計画) 引き続き関連する文献の購入に割り当てるほか、10月11日から14日にかけて米国のSoutheast Missouri State Universityにて開催されるFaulkner Conferenceの参加費用に使用する予定である。
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