2017 Fiscal Year Research-status Report
中国古典文献における井戸の諸相――道具・しぐさを手がかりに――
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17K13433
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
喜多 藍 (山崎藍) 明星大学, 人文学部, 准教授 (10723067)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中国文学 / 井戸 / しぐさ / かんざし |
Outline of Annual Research Achievements |
中国古典詩歌を中心に、文言小説などの古典文献を題材とし、中国古代における井戸がどのようなイメージを持たれていたかを考察する。手がかりとして、従来取りあげられることが少なかった、井戸にまつわる道具や井戸周辺で行われたしぐさの意義を分析する。ある場所に関する道具が持つ象徴性を加味することで、作品の新たな風貌を明らかにし、そこに込められた感慨をより正確に理解出来るようになる。また、ひとつのしぐさは、個人の心の内を反映するものであるとともに、社会に共有・伝承される文化とも言え、その行為が、「境界」とみなされた井戸で行われたのには何かしらの理由があると想定されるためである。2017年度は主に以下の作業を行った。 (1)8月にベトナムで資料および遺構調査を行った。具体的には、PHAM Le Huy氏(ベトナム国家大学ハノイ校講師)の助力を得て漢喃研究所の所長Nguyen Tuan Cuong氏と面談し、ベトナムにおける漢文文献資料調査の現状と課題について直接教示を受けた後、研究所にて資料調査を行った。また、発掘作業が進む国会議事堂地下・タンロン王城遺跡を訪れ、井戸から出土した文物や井戸遺構などを見学した他、バクニン省博物館館長と面談後、隋代の仁寿舎利塔銘(ベトナム国宝指定)の調査や晋・劉宋代の石碑見学、延応寺の井戸遺構などを訪れた。 (2)六朝学術学会第21回大会で口頭発表(査読有り)を行った。「長恨歌」および井戸を舞台にかんざしを喪失する様を初めて描いた梁・湯僧済「詠渫井得金釵」を主な分析対象とし、かんざしの喪失・破壊の意義を検討した。 (3)名古屋大学中国語学文学論集31に宅舎に関する校注を発表した。また論文を1篇投稿し、2018年度掲載(査読有り)が決まった他、日本の井戸と中国の井戸との比較を指摘した書籍(共著)の出版準備も進んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
口頭発表を1回行うことが出来、資料調査も順調に進んだ。 今年度は校注1篇のみの発表となったが、査読付き論文(1篇)の掲載が決まっている他、日中の井戸描写比較を試みた文章についても、出版準備が進んだ。以上を踏まえ、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、かんざしを落とす様を詠じた唐・李賀「美人梳頭歌」を解釈する。かんざしは当初、女性自身を象徴するものとして描かれたが、六朝時代になると女性が挿していたかんざしが「落ちる」「壊れる」行為と結びついて詩に詠われるようになる。それは単なる情景を詠ったものではなく、男性の心変わりや不在、将来への不安を暗示するという新たな表現が作り出されていることが、本年度の分析で判明している。このかんざし描写の象徴性を踏まえ、以前より検討してきた井戸の象徴性と併せることで、「美人梳頭歌」が、いかに特別な作品であるかを提起する。
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Causes of Carryover |
2018年度から青山学院大学に異動が決まった際、図書館より、図書購入を控えるよう要請があった。そのため、計画していた書籍を買うことが出来なかった。また、図書館の事務的ミスにより、当初科研費で買う予定と申請し認められていたものが取り消されたこともあった。残金を繰り越すことで、2017年度に購入出来なかった書籍を、2018年度以降購入し、研究を進めたいと思っている。
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