2018 Fiscal Year Research-status Report
中国古典文献における井戸の諸相――道具・しぐさを手がかりに――
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17K13433
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
喜多 藍 (山崎藍) 青山学院大学, 文学部, 准教授 (10723067)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 井戸 / かんざし / しぐさ / 長恨歌 / 魂瓶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、中国古典詩歌を中心に、文言小説などの古典文献を題材とし、中国古代における井戸がどのようなイメージを持たれていたかを考察する。 2018年度は主に以下の作業を行った。 (1)8月25日から8月29日に中国陝西省・甘粛省を中心に資料および遺構調査を行った。具体的には、陝西省歴史博物館副館長や甘粛省文物考古研究所所長、甘粛省博物館副館長などと面談し、文献および考古資料調査の現状と課題について直接教示を受けた。特に甘粛省文物考古研究所では、魂の依り代とみなされていた魂瓶や、遺構から発掘された灰陶井戸・竈・厠、髪飾りを含む装飾品などの現物を調査・撮影することが出来た。魂瓶については、来年度発表予定の拙論にて言及予定であり、現在調査時に撮影した魂瓶の写真を掲載出来ないか依頼中である。 (2)唐・白居易「長恨歌」および井戸を舞台にかんざしを喪失する様を初めて描いた梁・湯僧済「詠渫井得金釵」といったかんざし詩を分析対象とした。梁代に到りかんざしの喪失やかんざしの破壊は、男性の心変わりや不在、別れなど女性の不幸な状態を暗示するものとして詠じられるようになり、唐以後もこのモチーフは継承された。加えて、陳の徐徳言が鏡を割って妻の楽昌公主に渡し、後に再開できた「破鏡重円」故事が契機となり、「長恨歌」において、かんざしの喪失・破壊が愛情永続を意味するものになったことを明らかにした。以上の成果を、『日本中国学会報』(査読有り)に掲載した。 (3)天文中心の専門類書『天地瑞祥志』巻十六に収められている「醴泉」「井」項の翻刻・校注を発表した。 (4)国際シンポジウム(招待有り)で発表を行った。女性が髪を梳くしぐさを詠った李清照の作品を中心に言及した上で、髪を梳くしぐさの解釈の可能性を提起し、アメリカの作家ケネスレクスロスの翻訳との相違について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が大学を異動しその準備に時間を割く必要が生じたため、冬期ないし春期に行う予定の海外調査が出来ず資料調査に若干の遅れが生じているが、夏期に行った調査や文献資料をもとに、国際シンポジウムで発表を1回行い、査読付き論文の掲載に至った上、次年度にはこれを発展させた更なる進展が見込まれている。また、共著として執筆した日中の井戸描写比較を試みた文章についても、出版準備が進んでいる。 以上を踏まえ、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
白居易の新楽府「井底引銀瓶 止淫奔也」に詠われる「瓶沈簪折」について検討をする。正式な手続きを経ずに結婚した男女の恋愛は危ういものであると警鐘を鳴らす白居易の新楽府「井底引銀瓶 止淫奔也」は、釣瓶が落ちかんざしが折れるのは、愛する人との別れに似ているとの詠いだしで始まる。この「瓶沈簪折」にはどのような寓意が込められているのか、経典や詩歌などの記載を通して考えたい。 また、引き続き李賀「美人梳頭歌」についての分析も進める。かんざしが落ちる様を描いた李賀「美人梳頭歌」の大半は美人の豊かな髮の描写に費やされ、轆轤の回転と女性が共に描かれる唐詩の中で悲哀感を明瞭に感じられない殆ど唯一の例外であり、この点については今年度の成果に言及した。今後は本作品をどのように解釈出来るか、より詳細に検討を加える。
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Causes of Carryover |
研究代表者が大学を異動しその準備に時間を割く必要が生じたため、単著出版の準備、および冬期ないし春期に行う予定の海外調査が出来ず、結果として、想定よりも、図書購入のための物品費や旅費、複写費などを計上しなかった。今年度中に不必要なものを購入するのではなく、次年度以降に必要な現地調査を行い資料収集にあたることなどにより、計画的且つ適切に予算を執行する予定である。
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