2021 Fiscal Year Research-status Report
中国古典文献における井戸の諸相――道具・しぐさを手がかりに――
Project/Area Number |
17K13433
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
喜多 藍 (山崎藍) 青山学院大学, 文学部, 教授 (10723067)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 井戸 / 元シン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は新典社より『とびらをあける中国文学 : 日本文化の展望台』を上梓し、「中日井戸異聞―文学に描かれる井戸描写を中心に―」を発表した。本書内では、これまで検討対象だった中国における井戸をまとめた上で、日本における井戸の概観を記載した。日本では今昔物語集などの説話集において、井戸が境界と見なされていたり、死へ通じるものと考えられる作品が残されていた。また詩歌については万葉集を中心に検討をおこなった。『万葉集』には「井」が詠われたものや、『風土記』同様、地名の由来となる「井」、また「井」に男女の情愛を重ねる作品が見受けられる。興味深いのが、『万葉集』巻二・一一一「吉野宮に行幸せる時に、弓削皇子、額田王に贈り与ふる歌一首」である。これに関連し、『万葉集』巻二・一一一において、あの世にいる先帝への追慕として「井」が認識されていたとする説がある。日本では、説話集で黄泉や異世界に通じる「井」が描かれていたが、『万葉集』巻二・一一一以外の他の『万葉集』の作品では「井」から黄泉を想起させる作品は見受けられない。ただし、『万葉集』巻二・一一一において、招魂を連想させる場所として「井」が認識されていたならば非常に興味深いことで、中国古典詩に普遍的な井戸像(「故宅に残された井戸」と「離れた地にいる恋人を思い水を汲む井戸」「女性の悲哀」)を取り入れず、むしろ文言小説で描かれる「境界としての井戸」の発想をもとに作られた「夢井」と同じ特色をもった作品と言えることを提起した。 このほか、2021年度は「京都大学人文科学研究所所蔵『天地瑞祥志』第十九翻刻・校注(六)「狐」」(『青山語文』(52) 175-186 2022年3月)を発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初予定していたフィールド調査がコロナ禍により中止ないし延期になってしまった他、資料収集に時間がかかったことから、やや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の猛威が収まらず、海外への資料調査やフィールドワークは非常に困難となっている。また、昨年度同様資料収集がスムーズにいかなくなっており、文献と実地調査を柱としている本課題の近々の問題となっている。延長を認めて頂いたことを受け、ネット上の文献資料庫などを活用しつつ、武氏祠画像石拓本などの考古物における井戸などについて言及する予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により旅費を使用できず、計画を実行出来なかった。
|