2017 Fiscal Year Research-status Report
フランスとベトナムの「国民国家」形成に関する研究―インドシナの労働政策をめぐって
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17K13520
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡田 友和 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 講師 (10727788)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 仏領インドシナ / フランス第三共和政 / ベトナム / 植民地帝国 / 植民地国家 / 労働者住宅 / ハノイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1936-38年に仏領インドシナで展開された社会政策が、フランスとベトナムの「国民国家」の形成に決定的な影響を与えたとする仮説を実証することである。具体的にはフランス人民戦線政府の主導によってベトナム(仏領インドシナ)で行なわれた労働実態調査と労働者住宅建設に注目する。 本年度(平成29年度)は、研究計画に基づき、まず、人民戦線期(1936-38年)を軸に、第三共和政期に仏領インドシナ植民地政策にかかわったフランスの政党や政治家に注目し、植民地政策をめぐるフランス本国の動向を整理した。とりわけ総督の政治的位置や人間関係、また『インドシナ行政年報(Annuaire administratif de l’Indochine)』に記載された植民地官僚の経歴を、インドシナ総督府の各部局ごとに整理し、彼らの人間関係を分類する作業を行なった。そこから、少なくとも1920年頃から1936年まで、植民地政策に関わった政治家やインドシナ総督の立場、人間関係、およびインドシナにおける官僚の人事に大きな変化が見られなかったことを確認した。 他方で、1936-38年にインドシナで行われた社会政策の実態を明らかにするために、平成29年10月28日~11月5日にかけてフランス国立海外領文書館において史料調査を行なった。1936年にフランス植民地省内に設立された「植民地領調査委員会」の史料群(ゲルニュ史料群)から、1936-38年のインドシナにおける社会政策の実態解明に努めた。現状、収集した史料を分析中だが、この時期に本国政府の肝いりで実施したとされる社会政策は、実際は「計画倒れ」もしくは「小規模な実施」に留まったのではないかと推測している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、まず本研究を完遂するための基礎的な情報を収集・整理することを計画した。その点ではわが国において収集できる二次文献・資料を活用することができたため、本研究課題はおおむね順調に進展している。また、海外(フランス)の国立文書館において十分な史料の調査・収集をすることができたので、次年度に向けてスムーズに研究を続行できる。 ただし、一点、満足していないのは、本研究課題がとくに注目しているインドシナの社会(労働者)住宅に関連する文献・史料を、今回調査したフランスの文書館で見つけることができなかったことである。ただし、これは当初の計画で予期していたことではある。次年度(平成30年度)の計画にあるとおり、以上の問題は、ベトナムの文書館での史料調査・収集の結果、もしくは関連研究者からの情報・助言に期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後(目下、平成30年度において)は、研究計画に基づき、仏領インドシナの地方自治体レベルで展開された1936-38年の社会政策(社会保険事業ととりわけ社会住宅建設事業)に関する史料を調査・収集・分析する。ベトナム国家第1文書館(ハノイ)における史料調査が不可欠となる。この文書館で史料調査を実施する予定である。 他方、今年度(平成29年度)の研究作業のなかで課題も見えてきた。今後、計画に大幅な変更が加えられるわけではないが、第一に、仏領インドシナの社会政策を本質的に把握するには、そのモデルとなったと考えられるフランス本国の社会政策・社会制度をより具体的に把握しなければならない。そのためにはそのテーマに関連する文献や研究者に積極的に接触する必要がある。第二に、仏領インドシナにおける社会(労働者)住宅の実態把握のためには、行政史料の調査・収集だけでは限界がある可能性が見えてきた。この点は、都市工学や建築学といった研究分野にまで視野を広げることで対応することを考えている。第三に、本年度フランスの文書館で行なった調査で、関連史料をすべて十分に収集できなかった。必要があれば、予算に応じて、本年度もフランスへ調査に行くことがありうる。
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Causes of Carryover |
当初、購入を予定していた文献・資料を国内の大学機関で閲覧できたため、今年度に必要な予算を全額消費しなかったが、他方で、課題として別の新しいアプローチから情報を集める必要が生じたため、残額をそのための文献・資料購入費として次年度使用のために活用する。
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