2018 Fiscal Year Research-status Report
フランスとベトナムの「国民国家」形成に関する研究―インドシナの労働政策をめぐって
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17K13520
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡田 友和 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 講師 (10727788)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | フランス領インドシナ / 植民地帝国史 / ハノイ史 / 労働者住宅 / 社会政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1936-38年に仏領インドシナで展開された社会政策が、フランスとベトナムの「国民国家」の形成に決定的な影響を与えたとする仮説を実証することである。研究計画の第1段階(2017年度)では、フランス本国の植民地省およびインドシナ総督府の行政史料から、植民地で行なわれた本国モデルを映し出す社会政策の計画を明らかにしようと試みた。 研究計画の第2段階(2018年度)では、その実態の解明に関する作業:具体的にはハノイ市で1936-38年頃に展開された社会住宅建設事業の全容の把握を目指し、2018年9月9日から9月18日にかけてベトナムの国家第1文書館(ハノイ市)において関連史料の調査・収集・分析の作業を行なった。同文書館に所蔵されたハノイ市行政史料群 (Fonds Mairie de la ville de Hanoi) から、ハノイ市の北東部に建設されたマダム・ブレヴィエ労働者住宅街(住宅街の計画地図および構成員とその組織)に関する史料、および南部(Bay Mau地区)で開発された新市街地に関する史料を発見できた。後者の史料は、本研究の実証を補う材料になると考える。なお、マダム・ブレヴィエ労働者住宅街については、ハノイ滞在中に実際に現地(現・Phuc Xa地区)へ赴き、1938年当時の街区建設計画地図を手がかりに、今後の研究計画で必要性が予測されるフィールド調査の可能性を探った。現存していると思われるいくつかの公共施設がその調査対象になりうると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
植民地期ハノイで行なわれた社会政策とフランスとベトナムの国民国家の形成を結びつけるという本研究の試みは壮大であり簡単な作業ではないが、少しずつその検討・実証の材料が集まってきた。しかし、研究の達成に必要と考えている十分な質・量の史料をまだ収集できていない。とくにハノイの労働者住宅街に関する史料については、ベトナムの国家第1文書館に未調査の必要史料が多く存在しているが、同文書館の史料の整理状況や使用手続きなどの技術的な問題により、当初の計画よりも少ない史料しか手に入らなかった。他方で、当初の計画において予期していなかった新しい史料(ハノイ市南部の新市街地建設にかんする史料)の発見があり、今後の研究をより発展させる可能性を見出した。ただし、このことはより多角的な分析と考察を必要とするため、不十分な史料の収集と合わせて、現状の進捗状況についてはやや遅れていると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後(2019年度)は、これまでに行なってきた作業を研究成果としてアウトプットするが、そのためには(当初の計画どおりこの段階で)不足している材料を補わなければならない。当初の計画では、2019年度は国内の研究機関に所蔵された史料を収集する予定であったが、今年度の調査でベトナムの国家第1文書館に未調査の史料が多数所蔵されていることを確認したため、急遽、次年度(2019年度)も再び同文書館で調査ができるように今年度の予算の使用計画を変更した。これにより、進捗状況の遅れを取り戻し、かつ今後(2020年度以降)の発展的な研究計画も視野に入れた作業を行なう。
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Causes of Carryover |
2018年9月9日~18日にベトナムの国家第1文書館で史料調査を行なったが、本調査の直前に台風による被害で出発地の関西空港が閉鎖された。調査のためにベトナム現地の研究機関に文書館利用の手続きを依頼しており、日程を変更することができなかったため急遽、ルートを変更して航空券を購入したが、これが当初の金額よりも割高になった。この不測の事態により2018年度の予算の使用計画を変更せざるを得なくなった。他方、文書館の調査では今後の研究の発展を見込める成果があったことから、次年度も本文書館での調査を行うために、2018年度の予算をできるだけ残して次年度予算へ回すことが最良の方法であると判断した。
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