2020 Fiscal Year Research-status Report
15~17世紀における日本の海外貿易と国内経済との連関の研究
Project/Area Number |
17K13534
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
OLAH Csaba 国際基督教大学, 教養学部, 上級准教授 (70646380)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 入明記 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は主に二つのテーマについて研究を遂行してきた。 一つには、これまでに収集してきた日記や文書からのデータを分析し、中世日本における唐物消費の実態状況について検討した。唐物の財産としての要素に注目し、国内での入手経路や売却、質入、贈与に関する事例を分析してきた。困窮を理由に唐物を売却・質入したり、あるいは経済的余裕があって唐物を収集したりするといった事例から、唐物流通に関わる禅僧の存在が浮かび、彼らの目利きとしての役割が見えた。禅僧が遣明使節の目利きとして起用された背景には、禅僧の唐物に対する知識、あるいは禅僧の国内における唐物流通への関与が大きく影響したことが再確認できた。美術史分野における唐物研究から知見を得て、中世における美術品としての唐物の価値や、価格の判断基準について知識を深めた。唐物輸入に関しては、宝徳年間および文明年間の遣明使節に関する記録に基づき、遣明船の出発前の唐物注文およびそのための資金提供、そして帰国後の積載貨物の荷降ろし作業の事例について再検討を行った。 もう一つには、遣明使節による唐物入手の実態について検討した。『初渡集』『再渡集』の事例から、中国滞在中の唐物の入手経路や購入価格、購入のための資金調達などについて明らかにした。さらに『壬申入明記』を二つの視点から分析した。一つ目は、日本商品に対して明朝が支給する買取価格(給価)をめぐる寧波・南京・杭州での折衝の流れを再現し、給価およびその後の中国での貿易活動との関連性について考察した。二つ目は、華人との私貿易の時に起きた納品滞納の事件について分析し、実は二つの事件が記録されており、個別の検討が必要であるという新事実が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本・中国の史料からのデータ収集はおおむね終了し、前年度も本研究で提示した論点に沿って分析と整理を行った。遣明使節の貿易活動と唐物入手、唐物の国内流通・消費、遣明船貿易のための資金調達といったテーマを中心に史料と先行研究の総合的検討を行った。 上記の研究成果として、今後出版予定の『中日文化交流史叢書・明代巻』(陳小法・橋本雄編)のなかで「日明朝貢貿易の実態」という部分を執筆した。昨年度EAJS(ヨーロッパ日本研究協会)の国際学会の歴史学パネルで採択された報告(「Sakugen Shuryo's experience of legal and illegal trade in Zhejiang around the 1540s」)は、2021年度同学会がオンラインで開催されるため、実施する予定である。なお、Leuven大学(ベルギー)で予定していたサバティカルはコロナ感染拡大の影響で不可能になり、連携研究者と予定していた共同の研究会やシンポジウムは実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、中世における唐物消費・唐物流通について前年度に終えなかった先行研究および史料の検討・分析を継続する。同時に、遣明使節の貿易活動に関する入明記からのデータ分析で得た成果を整理して単著の一部としてまとめる。昨年度は、コロナ感染拡大の影響による個人的な理由で、これらの研究成果を反映する単著の執筆を終えることができなかったため、2021年度内の完成を目指している。
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Causes of Carryover |
補助事業期間延長の申請が承認され、研究期間が一年延びたため、次年度使用額が生じた。 主に本課題に関する書籍を購入するために使用する予定である。
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