2017 Fiscal Year Research-status Report
生態想像力を育む幼児期の持続発展教育についての実践理論の構築
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17K14006
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Research Institution | Osaka Shoin Women's University |
Principal Investigator |
山本 一成 大阪樟蔭女子大学, 児童学部, 講師 (70737238)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 幼児教育 / 持続発展教育(ESD) / 想像力 / 生態想像力 / 生活 / 生成発展カリキュラム |
Outline of Annual Research Achievements |
「生態想像力」の涵養を柱とした幼児期の「持続発展教育(ESD)」の実践理論を構築するにあたり、「生態想像力」概念およびESDについての理論的研究を行った。まず、教育学の先行研究において「想像力」概念がどのように位置づけられているかについての文献研究を行い、特に幼児教育に示唆的な「想像力」概念を提示しているデューイとルソーの教育思想について比較・考察を行った。その結果、「想像力」が経験を再構成することで生成発展カリキュラムを展開する力になる一方で、「想像力」の方向性によっては負の側面も持ちうることが明らかになった。以上の研究については、日本保育学会での発表、および紀要論文に成果をまとめた。 さらに、幼児期のESDについての先行研究を整理し、その課題と対応についての考察を行った。その結果、幼児期のESDは、遊びや生活を中心としてそれが行われるべきであると位置づけられながらも、その目的が「環境・社会・経済を改善していくための能力開発」に偏って論じられているというジレンマをもつことが明らかになった。このような現状に対して、「生態想像力」の概念は能力開発の視点のみにとらわれずに、幼児期の生活そのものの重視とそこからの学びを両立し、理論化していく可能性をもつことが論じられ、新たな実践理論の観点が提示された。以上の研究については、日本乳幼児教育学会にて発表を行い、今後学会誌に論文を投稿する予定となっている。 当年度については文献研究から多く成果が得られたものの、フィールド研究からは十分に成果を得ることができなかった。なお、本研究で得られた成果は、研究代表者が実施した保育実践者向けの環境構成研修においても還元されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度については文献研究に多くの時間をかけることによって充実した成果が得られた一方、フィールド研究に十分に取り組むことができなかった。文献研究に時間がかかった理由として、「幼児教育」「持続発展教育(ESD)」「想像力」という3つのキーワードを総合して扱う先行研究がほとんどなかったことにより、本研究の背景となる理論の整理に予想以上の労力を要したことが挙げられる。しかし、「幼児期のESD」、「幼児教育と想像力」といった背景的なテーマを十分に検討する時間をとったことにより、幼児期のESDにおける「生態想像力」の意義についてはより鮮明に理論化することができた。 また、研究者の所属機関の移籍の関係で、附属幼稚園でのフィールド研究がスムーズに遂行できなかったこと、および年度末に予定していたメルボルン大学アーリーラーニングセンターでのフィールド調査が実施できなくなったことも理由として挙げられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度については、平成29年度に得られた幼児期の「生態想像力」についての実践理論について、他の想像力理論との比較と生命論的観点からの補強によって、さらに発展させていくことを目指す(文献研究)。一方、昨年十分に実施できなかったフィールド研究に重点を置き、保育実践の現場における「生態想像力」の現出の仕方を明らかにし、実践理論を強化していくことを試みる。 まず、文献研究では、フェテスが行った想像力を通した教育理論のレビュー[Fettes 2013]を参考にして、本研究で形成されつつある実践理論の学術的な位置づけを明確化する。具体的にはイーガンの『想像力を触発する教育』[Egan 2005]や、フレイレの『被抑圧者の教育』[Freire 1970]といった教育理論との関連について検討する。また、本研究で形成されつつある実践理論を、インゴールドが論じる「ラインズlines」概念によって補強することによって、「生態想像力」が発揮されることの生命論的意義を明確化する。 一方、フィールド研究では、研究実施に最適な園を精査して協力を依頼し、月に2回程度の定期的な参与観察を行う。調査先の候補としては、研究代表者の所属機関である滋賀大学の附属幼稚園など、定期的な訪問が可能な近隣の園を予定している。国内での先進事例の調査は、事前に当該園との連絡を緊密に行ったうえで、調査目的との適合度を精査し、対象機関を絞って効率的な調査を行っていく。また、平成29年度に実施できなかったメルボルン大学アーリーラーニングセンターでの調査を行い、次年度以降に取り組む「日本の風土や教育文化に即した実践理論の構築」へ向けた手がかりを得ていく。
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Causes of Carryover |
平成29年度は文献研究に予想以上の時間を要したため、主にフィールド調査用に予定していた旅費が繰り越されることとなった。内訳としては、特に、メルボルン大学アーリーラーニングセンターにて予定していた調査費用が大きくなっている。メルボルン大学での調査を平成30年度に行うことによって、繰り越された予算を使用する予定である。また、所属機関の移籍に伴い必要となった物品(プリンター、事務用品等)についても繰り越された予算のなかから捻出する予定である。
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Remarks |
㈱明日香主催 「専門性を高める研修シリーズ 幼児教育・環境構成研修」 2017年12月8日 横浜総合事務所セミナールーム
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Research Products
(4 results)
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[Book] 保育原理2018
Author(s)
山本一成(編)
Total Pages
160
Publisher
七猫社
ISBN
978-4-908869-04-4