2017 Fiscal Year Research-status Report
複合イリジウム酸化物超格子薄膜における新奇電子相の創成
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17K14335
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平岡 奈緒香 (太田奈緒香) 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40758827)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 強相関電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Sn置換SrIrO3およびCaIrO3のディラックノード変調の直接観察に向けて、これらの置換量-温度に対する相図の詳細化を行った。同時に基板処理条件の見直しと反射高エネルギー電子回折装置への成膜中観察性能付与を行い、より質の高い薄膜の作製を可能にした。改善した手法で作製したSn置換SrIrO3薄膜を用いて、高エネルギー加速器研究機構(つくば)において、膜質評価を兼ねた試験的な光電子分光測定を行った。軟X線角度分解光電子分光測定を行い、大まかなバンド構造を把握することができた。 軟X線角度分解光電子分光で観察したSn置換SrIrO3のフェルミ面のトポロジーは、過去に報告されている無置換系のものとよく相似していた。これは、励起光のエネルギー幅に由来するエネルギー分解能(>200 meV)のために、Ir-O八面体の回転に由来する低い対称性を反映したバンド構造が分解されず、立方晶の対称性を反映する大雑把なバンド構造のみが潰れずに観測にかかっているためと考えられる。ただし、線上のディラックノードがあるとされるU点近傍で角度積分強度の温度依存測定を行うことで、磁気秩序形成に伴うフェルミ準位近傍の状態密度の変化の兆候を掴むことができた。より長波長の励起光を用いてエネルギー・角度分解能の高い測定を行うことで、目標が達成できると期待される。 基板処理条件の見直しは、光電子分光の角度分解能および超格子の質の向上を目指し、表面の平坦化を目標に行ったものである。鏡面研磨済みのSrTiO3(001)基板にBHFおよびアニール処理を施すことで、シャープなステップ端を持った平坦性の高い基板表面が得られた。また付随する結果として、これらの処理を施した基板上に作製した膜が、ステップの方向を反映した結晶方位の偏りを示すということを見出した。この結果を応用すれば、角度分解光電子分光やその他の異方性を議論するときに障害となる等価なドメインの数を減らせる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度予定していたSn置換SrIrO3, CaIrO3薄膜におけるディラックノード変調の直接観察には至らなかったが、その準備がほぼ整った。また、予期していなかった結晶方位制御の可能性が得られた。新奇超伝導系、ディラック系超格子の実現に関しては直接の進展は無いが、良質の超格子作製に必要な基板の平坦化、成膜の同時観察の可能化を達成したため、以降の進展が効率化できたと言える。これらを総合して、現在までの進捗状況は概ね順調であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
紫外線角度分解光電子分光を用い、磁気転移に伴うSn置換SrIrO3, CaIrO3のバンド構造の変化の直接観察を行う。試料作製場所から測定場所への運搬の最中の表面汚染を防ぐため、真空運搬装置の導入を予定している。並行して、ステップ基板を用いた結晶方位の制御の再現性を確認し、その方法を確立する。また、基板処理、薄膜成長同時観察を応用して高品質の超格子を作製し、新奇超伝導系、ディラック系を実現する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では光電子分光を海外の研究室と共同で行う予定であり、アメリカへの渡航費・滞在費を計上していた。しかし、その後の検討で国内での測定・運搬条件の最適化を優先する方針に変更したため。計上していた海外渡航費が未使用となった。繰り越し分は、分光測定時の試料状態向上のための真空運搬装置導入に当てる予定である。
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Research Products
(7 results)