2018 Fiscal Year Research-status Report
複合イリジウム酸化物超格子薄膜における新奇電子相の創成
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17K14335
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平岡 奈緒香 (太田奈緒香) 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40758827)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 強相関電子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に見出したSrTiO3(001)基板処理によるSn置換SrIrO3薄膜の結晶成長方向制御の再現性の確認を行った。また、同手法を適用してドメイン数を減少させた試料(無置換系および置換系)の電気輸送特性とその磁場応答の異方性を調べた。実験は主に研究協力者である博士学生の根岸真通氏が行った。 前年度は、平坦化処理を施したSrTiO3(001)基板上で、ステップ方向と相関して薄膜の結晶方向に偏りが見られることを見出していた。本年度はこれを検証および応用するため、傾斜方向および角度を指定した微斜面SrTiO3(001)基板に平坦化処理を施し、その上に薄膜試料を作製した。平坦化処理を施していない基板上では、ペロブスカイトの2倍の周期を持った軸(c軸)が基板面内([010]pcおよび[100]pc)方向を向き4つのドメインが混在する。ステップ線が[010]pc方向に平行な基板を用いると、 c軸が [100]pc方向を向くドメインが抑制され、主に2ドメインから成る試料が作製できた。 SrIrO3 および SrIr0.8Sn0.2O3 薄膜について、同手法を用いてドメイン数を減少させた試料の電気輸送特性の測定を行った。無置換系では、c軸方向の磁気抵抗が印加磁場の方向によって変化した。磁場によるバンド構造の変形を反映している可能性がある。置換系では、c軸に平行に磁場を印加したときのみ非対称なヒステリシスのある磁気抵抗が顕著に観測された。これは、この磁気抵抗の起源がc軸方向の弱強磁性磁化にあるとするこれまでの結果と整合する。 また、置換系では、平坦化処理を行っていない基板上に作製した薄膜が弱絶縁体的な電気抵抗率の温度依存性を示すのに対し、基板処理を行いドメイン数を抑制した試料は通常の絶縁体的な温度依存性を示すようになった。基板-薄膜界面、もしくはドメイン境界が伝導に大きく寄与していたと見られる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
意図的なドメイン数の制御という進展が見られたものの、予定していた光電子分光法によるディラックノードの直接観察、新奇超電伝導系、ディラック系超格子の作製が未達成である。出産・育児休暇取得に伴い7月より研究を中断しているのが大きな要因である。
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Strategy for Future Research Activity |
進展のあった無置換バルクSrIrO3およびSn置換SrIrO3系の測定に注力し、超格子系の作製はそれらがまとめの段階に入った時点で再開する方針に変更する。 まず、作製に成功したドメイン方向を制御した無置換およびSn置換SrIrO3薄膜を用いて、真空紫外光電子分光によるディラックノードの直接観察を行う。 また、Sn置換SrIrO3薄膜で見られた基板処理の有無による伝導特性の違いの原因を調べる。ステップ線が[110]pc方向に平行な微斜面SrTiO3(001)基板を用いると、ドメイン数は未処理基板上に作製した薄膜と同じ(4つ)で、基板・薄膜界面の状態は上で記述したドメイン数を制御した薄膜と同じ薄膜が得られると予想される。得られた薄膜が弱絶縁体的になるか絶縁体的になるかで、基板-薄膜界面、ドメイン境界のどちらが伝導に主な寄与をしていたかを評価する。 光電子分光と電気輸送特性の結果を総合し、磁場印加、Sn置換に伴うバンド構造の変化とそのメカニズムを明らかにする。 無置換およびSn置換SrIrO3の研究で得られた知見を踏まえた上で、界面粗さ・結晶方向を制御した超格子の製作を開始する。
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Causes of Carryover |
産前・産後休暇および育児休暇を取得し、7月以降研究を中断しているため。
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Research Products
(1 results)