2019 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ西部変成コアコンプレックスの大陸地殻強度マッピング
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17K14405
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永冶 方敬 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (10795222)
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Project Period (FY) |
2019-11-01 – 2021-03-31
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Keywords | アメリカ・ネバダ州の変成コアコンプレックス / 結晶方位測定 / Ti-in-Quartz地質温度計 / EBSD / NanoSIMS / 大陸地殻 / 上部マントル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では主に岩石学・構造地質学的研究手法から、変形岩石試料の微細組織を用いた変形時の各条件推定を行う。使用する岩石試料は、アメリカ・ネバダ州の変成コアコンプレックスから採取された変形した天然の花崗岩類であり、これらの試料セットに対する分析・解析から天然岩石試料の変形構成則を構築することで、地球表層部の岩石強度プロファイルを明らかにすることを目的としている。 当該年度では、鉱物の変形メカニズムを推定するために大陸地殻構成岩類中の構成鉱物の結晶方位データが必要であったが、南カリフォルニア大学でおいてEBSD測定を昨年度に引き続き実施することで、これらの鉱物の結晶方位データが収集された。また既存の地質温度計を用いた鉱物の温度推定には構成鉱物の化学組成データが必要であったが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校でのEPMA測定に加え、アリゾナ州立大学でのNanoSIMSを用いた石英中のチタン含有量測定を実施した。これらによって鉱物化学組成データが収集されたことで、大陸地殻構成岩類の変形時の各条件を推定するために必要なデータが収集された。 これまでのデータをまとめ、すでに報告されている天然の花崗岩類の公表データとの比較・統合や、提案されている変形構成則の検証、地球物理学的観測との整合性の評価などが今後必要ではあるが、当該年度までに地球表層部の岩石強度プロファイルの解明に重要な天然岩石試料の変形構成則の構築に必要な測定・分析が実施され、解析用データセットが得られた。 このほか上部マントルを構成する天然岩石試料の分析や実験的手法から、岩石強度推定に貢献する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・本年度までにネバダ州イーストハンボルトレンジ及びルビー山地での野外地質調査を行い、岩石試料の採取、採取試料の薄片化、薄片試料を用いた室内分析(EBSD、EPMA、NanoSIMS)を実施した。また本研究課題では異なる深さ起源を持ち、変形程度の異なる岩石試料セットを採取することは本研究課題の遂行に重要であったが、これまでの調査・分析から調査地域が各深さ領域での変形組織を保持した大陸花崗岩類の試料セットであることを確認した。特に地殻深部から浅部の変形構造が順にラモイルキャニオン、シークレットパス、エンジェルレイク周辺の試料中で保存されていることが明らかになった。特にエンジェルレイク周辺の試料中微小剪断帯内では、異なる深さで形成されたことが予想される各微細変形組織が確認され、これら組織に対する室内分析を重点的に実施した。 ・当該年度までには四国三波川帯及び関東三波川帯釜伏山周辺、アメリカ・カリフォルニア州ジェードコーブ周辺、及びギリシャ・シロス島の野外調査を実施した。またすでに関東三波川帯釜伏山及びカリフォルニア州ジェードコーブ周辺の滑石片岩のEBSDによる滑石及び角閃石の結晶方位測定に成功しており、当該年度はEBSD測定の正確性をFIB-TEM測定から検証した。岩石中滑石の結晶方位マップ測定による結晶方位定向配列パターンはこれまで報告はなく、これらの成果は現在査読英文誌にて印刷中である。 ・天然試料を用いた蛇紋岩の高圧加熱実験では昨年度までにアンチゴライトとブルース石の分解反応によるかんらん石の生成に成功していたが、本年度は蛇紋石鉱物とブルース石の境界に沿って多数のかんらん石の凝集体を生成することに成功した。 ・当該年度、天然試料の微小剪断帯中のアンチゴライト粒子のFIB-TEM観察から、アンチゴライトが粒界滑りによってCPOを形成することを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
・引き続きネバダ州イーストハンボルトレンジ及びルビー山地から採取された岩石試料の室内分析を実施していく。また、まずエンジェルレイクの試料中の各変形組織に対して変形条件を推定していき、同様の解析を他調査ポイント及び他調査地域の試料に順次実施していく。 ・本年度までの成果をもとに、今後四国三波川帯及び関東三波川帯釜伏山周辺を含む国内外の野外調査から得られた岩石試料に対し、微細組織分析を継続して実施する。これらから複数地域の異なる条件で形成・変形した岩石試料の微細組織解析から地殻・上部マントルの構造及び、その物理的特性を推定する。これらの物理的特性は今後特に沈み込み帯のスラブーマントル境界や海嶺、海洋底領域に加え、滑石を多く含む変成岩や火成岩など幅広く活用が期待される。 ・本年度までに得られた天然試料を用いた蛇紋岩の高圧加熱実験の実験試料の化学組成及び、鉱物結晶方位測定を実施しまとめる。これら実験手法を含めこれまでの一連の実験成果は沈み込み帯上部マントルで予想される変成反応とそれに伴う岩石組織と岩石物性の変化の推定に貢献することが期待される。 ・本年度、天然試料の微小剪断帯中のアンチゴライト粒子のFIB-TEM観察を実施し、断帯中心のアンチゴライトが粒界滑りによってCPOを形成することを確認した。これらはアンチゴライトの新たなCPO形成機構を提唱する成果であると同時に、今後本手法によって異なる鉱物の変形組織においても粒界滑りの痕跡を得られる可能性を示唆する成果である。 今後最終年度までに実験試料や、イーストハンボルトレンジ、ジェードコーブ、四国及び関東三波川帯、シロス島の天然試料から得られた調査・分析・解析結果とそれらの研究成果を国際誌へ投稿・公表する。
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Causes of Carryover |
本課題に不可欠なEBSDによる結晶方位測定では研究実施場所の変更に伴い、異なる分析装置や解析ソフトの使用が必要になったが、異なる装置・ソフトから得られたデータの直接的な統合・比較が困難なことが判明した。複数データの統合や比較に基づいた結果の信頼性には同一手法・条件での分析と解析であるかは重要な点であり、取得済みデータの再解析に加え、一部のデータ取得を行なった海外研究機関との再調整のため1年間の期間延長が必要となった。そのため、これらに関係する予算を次年度使用する計画である。
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Research Products
(6 results)