2017 Fiscal Year Research-status Report
量子状態分布制御を用いた振動固有状態の高分解能実空間イメージング
Project/Area Number |
17K14434
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
星野 翔麻 東京工業大学, 理学院, 研究員 (20783616)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分子ダイナミクス / 分子クラスター / 分子分光学 / 電子状態 / コヒーレント制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、分子の根本的実像である振動固有状態を可視化する手法を開拓することで、結合の解離限界近傍までの広いエネルギー領域での振動固有状態を観測し、解離や異性化等の分子ダイナミクスを定量的に評価することを目的としている。弱い分子間力で結合した分子クラスターはその構造変形が容易であるため、分子振動のコヒーレント分布制御において最適なベンチマークであると考えられる。具体的には、大きな分極率異方性を持ち、高いラマン遷移確率を持つベンゼン環を含むクラスターを研究対象とした。解離限界近傍までの広い範囲で振動固有状態を観測するためには、ポテンシャルの深さ、つまりクラスターの結合エネルギーを明確にする必要がある。そのため、本年度は当研究グループでこれまで行われてきた、電子励起状態における高分解能分光測定をベースにとして、イオンブレイクダウン分光法により、ベンゼン-水素クラスターBz-(H2)n (n = 1, 2, 3)の結合エネルギーを決定した。Bz-H2とBz-(H2)2の結合エネルギーD0(S0)はほぼ同程度である一方で、Bz-(H2)3のD0(S0)はBz-H2やBz-(H2)2と比較して100 cm-1程度小さい。解離する水素の結合環境の違いがBz-(H2)nの結合エネルギーに反映していると考えられる。 ベンゼン-水素間の分子間相互作用を理解することは、炭素マテリアルを用いた水素吸蔵技術の開発を進める上での基盤であり、これまで多くの計算化学的研究例が報告されている。今回の成果は、初めて実験的に結合エネルギーを特定したものであり、計算化学の信頼性を評価する上で重要なreferenceを提供するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、分子振動に関する量子固有状態についてreal spaceでの実験情報を取得する新規な方法論の開拓を目指している。研究初年度である平成29年度は、そのための基盤的なデータの取得に重点的に取り組んだ。解離極限近傍までの広いエネルギー領域で振動固有状態を観測し、解離や異性化等の分子ダイナミクスを定量的に評価する上で、弱い分子間相互作用で結合した分子クラスターは最適なベンチマークの1つである。本研究では、基本的な分子クラスターの一種であるベンゼン-水素クラスターを研究対象として、2波長レーザー分光と質量分析技術を組み合わせることにより、結合エネルギーを決定することに成功した。ベンゼン-水素間の分子間相互作用を理解することは、炭素マテリアルを用いた水素吸蔵技術の開発を進める上での基盤であり、これまで多くの計算化学的研究例が報告されている。今回の成果は、初めて実験的に結合エネルギーを特定したものであり、計算化学の信頼性を評価する上で重要なreferenceを提供するものである。また、ベンゼンに結合する水素分子の数に対して、結合エネルギーが系統的に変化していくことも実験的に明らかにすることができた。この変化は、クラスター内での水素分子の配置と対応しており、分子間相互作用を定量的に評価する上でも重要である。以上、学術的に重要な知見を着実に生み出しており、研究は順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はベンゼン-水素クラスターBz-(H2)n (n = 1, 2, 3)の結合エネルギーの決定を行った。次年度以降、この結合エネルギー(ポテンシャルの深さ)をもとに、量子状態のコヒーレント制御法を適応し、分子クラスターの振動固有状態を観測していく予定である。さらに高品位な実験データを取得できるよう、パルスバルブや検出器などを新たに導入し、現有の高真空チャンバーの改良を行う予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度に購入を予定していた高真空チャンバーや小型分光器の材質・性能等の選定に時間を要したために、納期が遅れ、年度内の納入が間に合わなかった。現在、製作中であるために平成30年度に購入予定の物品と合わせて予算を使用する。
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Research Products
(4 results)