2017 Fiscal Year Research-status Report
クロマチン構造解析による心筋分化の制御メカニズムの解明
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17K15040
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中村 正裕 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (40634449)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | クロマチン構造 / 心筋細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
クロマチン構造は染色体上の様々な位置で開閉することにより転写因子と協調し、遺伝子発現を調節し、発生・分化段階における細胞の状態を制御しているが、ヒト心筋分化過程において各々のクロマチン構造がどのような順番で変化していくかは知られていない。申請者は、ヒト心筋分化過程におけるクロマチン構造の変化に興味を持ち、100細胞程度の微量細胞数を用いたクロマチン構造解析法(改良版ATAC-seq)を開発している。本研究では、今までは細胞数が少なく解析が困難であった、ヒト多能性幹細胞から心筋細胞への分化各段階におけるクロマチン構造解析(オープンクロマチン領域の同定)及びシングルセル発現解析を行い、心筋分化を促進させる新規転写因子を同定し、また、新規転写因子が心筋細胞のクロマチン構造をどう変化させうるのかを、少数細胞を用いたChIP-seq解析およびシングルセル発現解析を用いることによって明らかにすることを目的とした。今年度申請者は、改良版ATAC-seqを用いて、ヒト多能性幹細胞から心筋細胞への分化各段階における、オープンクロマチン領域を1塩基レベルで同定した。タイムポイントとしては、シングルセル発現解析にて用いた分化前(Day0)、分化初期(Day5)、分化中期(Day9)、分化後期(Day30)を選択し、各サンプル間の比較、差分を行い、各時期に特異的なオープンクロマチン領域を同定することができた。また、シングルセル遺伝子発現解析を用いて、分化初期から中期 (Day5→Day9)に心筋特異的遺伝子の発現の上昇がみられ、主成分分析においても大きな軌跡の変化を認めることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究においては、心筋分化過程についてクロマチン構造の変化を明らかにし、分化促進にかかわる新規転写因子の同定を目指すことが目的である。申請者は準備として、心筋分化におけるシングルセル解析発現解析を行い、分化前、分化初期、中期、後期の段階で各々遺伝子発現が大きく異なることを見出している。そこで、心筋分化におけるオープンクロマチン領域の同定(クロマチン構造解析)として、ヒト多能性幹細胞から心筋細胞への分化各段階における、オープンクロマチン領域を改良版ATAC-seqを用いて同定することを試みた。 申請者は、100細胞からでも施行可能な高品質なクロマチン構造解析系(改良版ATAC-seq)の立ち上げに成功した。この改良版ATAC-seqを用いて、タイムポイントとして、シングルセル発現解析にて用いた分化前(Day0)、分化初期(Day5)、分化中期(Day9)、分化後期(Day30)を選択し、各時期に特異的なオープンクロマチン領域を同定した。使用する細胞には分化マーカーであるMYH6のプロモータを用いたMYH6-GFPを組み込み、分化後期にはFACSソーティングによって分化した細胞のみを選別し、より高度な分化状態をもつ少数の細胞のクロマチン構造解析を試みた。本研究により、従来の実験系では成し得なかった微量細胞数での新規解析手法を用いることにより、心筋分化における高精度なクロマチン構造解析を行うことが可能であることを示された。
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Strategy for Future Research Activity |
今回同定したオープンクロマチン領域は転写因子が結合しやすい領域であり、転写因子結合モチーフを多く含んでいる。心筋分化特異的オープンクロマチンにおける転写因子モチーフを複数同定する。転写因子モチーフの中には、既知の心筋分化のマスターレギュレータである心臓特異的転写因子群が含まれると考えられる。転写因子モチーフのデータベースと照合することで、心筋分化における新規の転写因子モチーフを見出す。また、ヒト多能性幹細胞からの心筋分化におけるクロマチン構造解析により見出される転写因子、またシングルセル発現解析から見出された候補転写因子について、心筋細胞のクロマチン構造やヒストン状態をどのように変化させうるのかを少数細胞を用いたChIP-seq解析にて検討する。心筋分化における役割をみるため、分化途中の細胞において当該転写因子をサイレンシングまたは過剰発現させたサンプルに対してシングルセル発現解析を行い、通常分化と比べどのような発現変化が起きているかを同定する。 具体的には、新規転写因子や、シングルセル解析で得られた候補転写因子について、心筋各分化段階におけるChIP-seqを行い、これら転写因子が心筋分化のどの時点でゲノム上のどの位置に結合するか同定し、オープンクロマチン領域あるいは既知のマスターレギュレータの結合部位とのオーバーラップを検証する。さらに、分化途中の心筋細胞に対して、新規転写因子の発現をターゲットとしたsiRNA / 発現プラスミドを用い転写因子の発現を調節し、シングルセル発現解析を行う。通常分化時の細胞と分化度を比較する。通常分化においては、シングルセルの発現は主成分分析において分化状態の軌跡上に示されるが、新規転写因子の発現に摂動を与えた細胞において、これらの軌跡から逸脱するのか、あるいはより分化が進む方向に変化するのかを検討する。
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Causes of Carryover |
申請者は心筋分化におけるオープンクロマチン領域の同定(クロマチン構造解析)として、ヒト多能性幹細胞から心筋細胞への分化各段階における、オープンクロマチン領域を改良版ATAC-seqを用いて同定することを試みた。100細胞からでも施行可能な高品質なクロマチン構造解析系(改良版ATAC-seq)の立ち上げに成功し、予定していた試薬代より少ない金額で予定の研究項目を達成しつつあるため、次年度使用額が生じた。今後の研究計画では、主に消耗品の使用を予定しており、ATAC-seq、PCR、RNAi、インデックス化のためのプライマーの合成、細胞培養や遺伝子組み換え用プラスミド合成などの分子生物学実験費用、DNA配列決定のための高速シーケンサーのシーケンシング費用、遺伝子発現解析のために用いるRNA-seqの試薬費用を計上した。これらの実験はすべて本研究を遂行するのに必要な経費である。
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