2017 Fiscal Year Research-status Report
光照射による木材細胞壁の劣化機構に関する組織化学的研究
Project/Area Number |
17K15299
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
神林 徹 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 任期付研究員 (30772024)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 光劣化 / 劣化機構 / 耐光性 / 木材細胞壁 |
Outline of Annual Research Achievements |
木材を公共建築物や商業ビルなどのエクステリア資材として屋外で使用する機会が増えつつある。木材を屋外で使用する場合、太陽光による光劣化を防ぐための耐光化処理が必要となってくる。耐光化処理の効率化・高度化を図る際に重要となるのが、木材の基礎的な光劣化機構である。しかし、光照射により細胞壁のどの部分がどのように劣化し、深さ方向へどのように劣化が進行するのかという細胞レベルでの知見はほぼ無い。そこで本研究では、木材の耐光化処理の効率化・高度化に向け、光照射による木材の劣化機構を細胞レベルで解明することを目的とした。 本年度は、促進耐候性試験装置を用いてスギ辺材試験片に対して人工太陽光(キセノン光)を照射し、晩材部表層における木材成分の劣化深さを顕微ラマン分光法により測定した。リグニンのベンゼン環およびカルボニル基に由来するラマンバンドの強度をもとに深さ分析を行ったところ、ベンゼン環は深さ100~145μmまで減少し、カルボニル基は深さ249~285μmまで増加していた。カルボニル基の増加が確認された深さは、顕微赤外分光分析による既存の報告よりもやや深い結果となった。さらに、リグニンのコニフェリルアルデヒドに由来するラマンバンドを用いたところ、コニフェリルアルデヒド構造は深さ426~496μmまで減少が確認され、細胞壁成分はこれまで考えられていたよりも深くまで劣化していることが明らかとなった。次に、劣化表層部においてラマンマッピング分析を行い、多糖(セルロース、ヘミセルロース)およびリグニンの分布を可視化した。その結果、光照射のみの場合は深さに応じてリグニンが均一に減少するのに対し、光照射とともに人工雨水を噴霧すると表層の細胞においては表層側からだけでなく細胞壁の内腔側からもリグニンの劣化が進行することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、光照射による木材の劣化機構に関して、各種顕微鏡および顕微分光法を用いて細胞レベルで解明することを達成目標としている。本年度は、顕微ラマン分光法により光劣化木材の表層部から内側方向にかけて連続的に分析し、光照射によりどれだけの深さまで細胞壁成分の変化が起きるのかを明らかにした。また、ラマンマッピングにより多糖やリグニンの分布を可視化し、光照射過程での化学成分変化を細胞レベルで明らかにした。このように研究は順調に進行しているため、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、多波長分光照射器で分光した波長別光を木材試験体に照射し、波長の違いが木材細胞壁に与える影響を各種顕微鏡分析により評価する。波長領域は紫外線~可視光とし、波長間隔約30nm、波長幅20nmの条件で分光した光を用いる。さらに、耐光化処理木材における光劣化挙動を解析し、耐光化処理による性能発現機構を明らかにする。耐光化処理には、造膜形および含浸形の木材保護塗料を用いる。
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Causes of Carryover |
消耗品を定価で購入する予定を立てて予算の執行を行ったところ、納入価格との差額が生じたため次年度使用額が生じた。次年度は、光劣化した木材の顕微鏡および顕微分光分析に必要な試薬や消耗品、共用施設における実験機器利用費、得られた研究成果を学会等で公表するための旅費として使用する計画である。
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Research Products
(3 results)