2017 Fiscal Year Research-status Report
活性イオウによる心筋ミトコンドリアの品質管理と環境ストレス適応機構
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17K15464
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
西村 明幸 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 特任助教 (00457152)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 環境化学物質 / レドックス / ミトコンドリア / 心疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境化学物質は微量ではあるものの、化学反応性(親電子性)が高く、生涯にわたってこれら環境因子に曝露されることが疾患リスクを規定する一因になると考えられている。メチル水銀はその神経毒性が良く知られているが、神経毒性を示さない低濃度曝露によって心疾患リスクが上昇するとの疫学的研究結果が報告されている。我々はそのメカニズムを明らかにするために、低濃度メチル水銀を飲水投与したマウス心臓の圧負荷リスクを検討した。その結果、メチル水銀投与マウスでは圧負荷刺激後の心機能低下が顕著であった。メチル水銀飲水投与マウスはコントロールに比べて心筋ミトコンドリアが過剰分裂しており、これと一致するようにミトコンドリア分裂因子Dynamin-related protein 1 (Drp1)の活性が亢進していた。メチル水銀によるDrp1の活性化にはDrp1のシステイン624番が関与することが分かった。ラット胎児由来心筋細胞に低濃度メチル水銀を添加すると、機械伸展ストレスに対して脆弱になるが、これはミトコンドリア分裂を抑制することで回避された。即ち、メチル水銀による心筋ミトコンドリアの過剰分裂が、心疾患リスクの要因であると考えられた。 Drp1は細胞内のシステインパースルフィドといった活性イオウ分子種によってシステイン624番がポリイオウ化修飾されており、このポリイオウ化修飾がDrp1の活性を負に制御していることが明らかとなった。親電子的性質を有するメチル水銀は、Drp1のポリイオウ化システインと反応することでDrp1の脱イオウ化を促進させ、Drp1の活性を上昇させることを明らかにした。以上の結果から、Drp1はレドックス応答性の高いシステイン624番のポリイオウ化修飾を介して自身の活性を調節することで、心筋ミトコンドリア品質並びに心疾患リスクに関与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
環境化学物質の曝露と心疾患リスクの関連性を調べるために、外因性親電子物質であるメチル水銀をモデルに、低用量メチル水銀曝露がマウスの心疾患リスクに与える影響を検討した。そして、メチル水銀曝露による心筋ミトコンドリアの過剰分裂が圧負荷脆弱性の引き金になっていることをIn vivoマウスモデルから明らかにした。また、メチル水銀はミトコンドリア分裂制御因子であるDrp1を活性化することでミトコンドリア分裂を誘導することも見出した。次に、メチル水銀がDrp1を活性化するメカニズムについて検討を行った。メチル水銀は親電子性を有し、標的タンパク質のシステインチオール基をS-水銀化修飾することが知られている。細胞死を誘導する高濃度のメチル水銀処置では確かにDrp1のs-水銀化修飾が確認されたが、ミトコンドリア分裂を誘導する低濃度のメチル水銀処置ではDrp1のs-水銀化修飾は見られなかった。一方、Drp1はシステイン624番がポリイオウ化修飾されることで活性が負に制御されており、メチル水銀はDrp1ポリイオウ化システインから硫黄を引き抜くことでDrp1活性化を誘導することを見出した。これまでの結果を基に、Drp1はシステイン624番を介してレドックスセンサー分子として機能すること、環境化学物質による活性イオウの枯渇が疾患リスクの引き金となるモデルを立て、検証を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
まずはDrp1がレドックスセンサーとして環境化学物質をセンスするメカニズムを検証していく。これまでに単離心筋細胞を用いた系において、メチル水銀はDrp1の脱イオウ化を誘導することで活性を制御することを明らかにしてきた。そこで、メチル水銀以外の環境化学物質についても同様にDrp1のポリイオウ化レベルの減少を引き起こすのかについて調べる。Drp1以外のミトコンドリア制御分子(Mfn1, Mfn2, Opa1)についてもレドックスセンサーとして機能しているのかを検証する。さらに、環境化学物質を投与したマウス心臓においてDrp1の活性およびポリイオウ化レベルが変動しているかを検証する。加えて、環境化学物質を投与したマウスや様々な疾患モデルマウスにおける活性イオウ量の変動を調べることで、環境化学物質と活性イオウのバランスが破綻することが心疾患リスクを規定する要因となっているのかを検証する予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)活性イオウ産生酵素CARS2欠損マウスの繁殖に時間がかかっているために、このマウスを用いたIn vivo実験にかかる費用は次年度に繰り越した。 (使用計画)平成29年度はCARS2欠損マウスを用いた病態モデルマウスの作製、飼育と個体レベルでの機能解析を行うための物品費が主要な使用目的となる。さらには2018年9月京都で行われる日本生化学会大会への出張費、さらには海外学会への出張費、論文の投稿費用を計画している
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