2017 Fiscal Year Research-status Report
病原糸状菌ガラクトフラノース糖鎖の構造制御メカニズムと宿主感染における意義の解明
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17K15492
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Research Institution | Tohoku Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
田中 大 東北医科薬科大学, 薬学部, 助手 (00613449)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Aspergillus fumigatus / ガラクトフラノース / 細胞壁 / Cell wall integrity / 糖転移酵素 / 免疫回避 / 自然免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、Aspergillus fumigatus の細胞壁ガラクトマンナン (GM) 多糖生合成機構のうち、未解明の部分に焦点を当てた基礎的研究を行った。特に、i) 新規のガラクトフラノース (Galf) 転移酵素の同定とGM生合成における機能評価、ii) 窒素源飢餓時におけるGalf糖鎖長の制御メカニズムとその生物学的意義の一部、iii) GMマンナン多糖の生合成を担う新規α1-2マンノース転移酵素の同定については、今年度中に成果をまとめ、論文として発表する準備を進めている。なお、今年度の補助金は、主に上記の研究を遂行するための試薬、および器具の購入に充てた。
i, ii) 本研究計画の主眼は「A. fumigatus の細胞壁Galf糖鎖構造の違いは、ヒト免疫細胞との相互作用、すなわちヒトへの感染過程に影響を及ぼすか」を解明することである現在投稿準備中の論文では、① 新規のGalf転移酵素GfsCは、A. fumigatusにおいて、既知のGalf転移酵素GfsAと独立してGalf 糖鎖生合成に関与すること、② gfsAおよびgfsC遺伝子の発現は、細胞壁ストレス応答分子MpkAの制御を受けること、③ 伸長したGalf 糖鎖は、A. fumigatus 菌体とヒト免疫細胞がもつ自然免疫受容体との結合を妨げることをそれぞれ記述している。
iii) 細胞壁GMはGalf 糖鎖とマンナン多糖から構成され、マンナン多糖の主鎖とGalf 糖鎖の側鎖から成る。研究代表者は、新規のα1,2マンノース転移酵素 CmsAおよびCmsBがマンナン多糖生合成に重要であることを明らかにした。マンナン多糖はヒト免疫受容体の良い基質である一方、Galf糖鎖はその基質-受容体相互作用を阻害する可能性がある。今本成果は、A. fumigatusのヒト感染過程を理解するために重要な知見となるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね研究実施計画に沿って進捗しており、一部は、次年度分の研究を前倒しで実施することができた。 i)「GM生合成を担う新規Galf転移酵素の同定と酵素機能の評価」順調に推移している。研究協力者と協力し、新規Galf転移酵素の候補遺伝子を7種類に絞り、そのうちのひとつにin vitro Galf転移活性を認めた。続けてこの遺伝子を欠損する株の細胞壁GM構造を解析し、実際に細胞壁GM生合成に寄与する遺伝子であることを確かめて、gfsCと命名した。その他の6種についても同様に解析中であるが、実験系は既に確立しているので、続く解析もスムーズに進捗するものと期待できる。なにより、GM生合成への寄与が大きい2種(GfsAとGfsC)を同定できていることは、次年度の研究計画の進捗にも好影響であると思われる。 ii)「既知ストレス応答遺伝子によるGaf制御機構の解明」おおむね順調に推移している。細胞壁ストレス応答に寄与することが明らかなMpkA、SakA、MpkC、およびその下流シグナル分子に着目し、窒素源飢餓条件におけるGalf伸長現象をモデルとして解析を行った。その結果、Galfの構造制御にはMpkAのシグナル伝達分子としての働きが重要であることを突き止めた。上記の通り、これについては論文投稿準備中である。一方、SakAとMpkCについても少なからず関与がありそうなので、こちらについては予定を引き延ばし、引き続き解析を行っていく予定である。 iii)「研究実施計画外の研究について」次年度以降に行う予定であった実験の一部について、前倒しで着手している。まず、質の高いRNAが得られたため、飢餓ストレス条件下におけるRNA発現変動をRNA-seqにて予試験的に確認している。また、飢餓ストレス応答性GFP発現ベクターの構築も予備試験を実施しており、次々年度研究計画の準備にも触れているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、研究実施計画に沿って研究を遂行しつつ、一部、今年度から引き続いた実験を行う。
①「Galf糖鎖を伸長するストレス条件の探索と、RNA-seq法を用いたGalf糖鎖制御遺伝子の洗い出し」今年度までに、Galf生合成に関わる遺伝子群のうち、主要なGalf転移酵素を2種、Galf転移酵素の遺伝子レベル制御に関わるストレス応答分子を1種見出している。また、Galf糖鎖を伸長させる環境ストレス条件を3条件見出している。これらを足掛かりとして、Galf糖鎖伸長を起こす環境ストレス条件、およびこれに関わる遺伝子のすべてを洗い出すことを目標とする。次年度はまず、Galf糖鎖が伸長する環境ストレス条件を新たに探索する。続いて、各ストレス条件下におけるRNA発現をRNA-seq報を用いて比較することで、Galf糖鎖伸長条件におけるRNA発現変動の蛍光を明らかにする。②「生細胞でGalf伸長を可視化するためのGFPレポーター発現A.fumigatus株の作製と評価」ヒト免疫細胞の貪食・感染過程の短い時間におけるGalfの発現変動を観察するため、遺伝子発現パターンに同調してGFPを発現するA.fumigatus株を作製する。①で得られた知見とこれまでに得られている知見をあわせて、Galf糖鎖伸長と発現がよく相関する遺伝子についてGFP融合変異株を作製する。この株のGFP発現パターンとGalf糖鎖、またはGalf転移酵素発現パターンがよく一致するか確かめる。③ SakA、MpkC遺伝子とGalf生合成との関わりを明らかにするため、各遺伝子欠損株のGM構造およびGalf量、各遺伝子の活性化レベルなどを引き続き調べる。
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Causes of Carryover |
第一に、計画当初は、A.fumigatusの遺伝子変異株作製にCRISPR-Cas9のプラスミドベクターの系を用いる予定であったが、いくつかの要因でその必要が無くなったことがあげられる。まず、一部の遺伝子欠損株は、研究協力者にお願いして分譲していただいた。また、市販のCas9タンパク質を安く購入できるようになり、Cas9タンパク質を使った系がことさらうまくいくようになったことも大きかったように思う。つまり、ベクター作製や遺伝子導入にかかる費用が見込みよりも低く抑えられた。第二に、RNA-seqにかかる費用がずいぶん安くなった。次世代シークエンサーを扱うベンチャー間の競合原理によるものだろうが、必要最低限の情報量を低価格で提供してくれる業者を頼ることが出来た。 次年度使用額としての用途としては、RNA-seqの検体数を増やすことを検討している。当初は4条件での比較条件を計画していたが、6~8条件で比較することで、Galf制御に関わる遺伝子をより詳細に絞り込むことが出来るはずである。
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