2019 Fiscal Year Research-status Report
伝統音楽の教授法・学習法とその変化~明治・大正期能楽を中心として
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17K17745
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
玉村 恭 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (50575909)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 能楽 / 伝統芸能・伝統音楽 / 教授法 / 学習法 / 素人 / アマチュア |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は大別して三つの作業を行った。第一に、これまでに明らかになってきたことのさらに細部を突き詰めて、情報の精度を高めることである。前年まで作業を進めてきて大筋の流れはつかめてきたものの、個々の事象の事実関係の詳細がいまひとつ鮮明な像を結ばない部分があった。そこを埋めるため、明治・大正期の文献資料をさらにあたるとともにこれまでにアクセスした文献等を改めて見直す作業を行った。第二に、得られた成果をまとめていくにあたって考えられる理論的な基盤・文脈を確定する作業である。類似の時代や近似の主題を扱った研究成果に目を向けてその成果を押さえるとともに、それらの論脈と本研究で得られた成果との整合性・接合の可能性を測る作業を行った。セミフォーマルな形での報告の場を設け、その都度成果の一部を公表した。第三に、上記二点の作業を踏まえつつ研究全体を振り返り、情報を整理し成果を結実・公表する作業である。数度の学会での口頭発表と論文二篇の執筆を通じて、民族音楽学および芸術史・思想史の文脈に乗せて成果を公表した。公表の頻度としてはおおむね所期したのと同等あるいはそれ以上の回数を確保することができ、また内容的にも複数の学問分野にまたがる形で、それぞれの関心に適合するようにして自身の研究成果をまとめることができたと自負している。一方で、次項に述べるごとく計画通りに進まなかった点、適切かつ十分な形でまとめきれなかった部分があり、やり残した作業・遂行すべき仕事が残っている。このことを踏まえ、一年研究期間を延長して調査・研究のさらなる充実をはかる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度中いくつか予期していなかった障害があり研究に遅滞が生じた。一つには研究内的な事情がある。上記した資料の見直し細部を詰める作業から、明治・大正期の能楽享受は社会的な階層や地域ごとの事情よって様々な仕方でなされていたのみならず(ここまでは前年までの研究である程度見えてきたことである)、比較的短いスパンの時間でも享受の仕方に変異が生じていたことが明らかになってきた。当初素人的な能楽享受の主たる担い手であると目していた富裕層・紳士層はある時期から勢力を失い、能楽界全体に対する影響力を弱めていったらしい。本研究の主たる関心である学習・稽古の形態に関しても、同じ流派・同じ芸系の役者であっても考え方が異なっていたり、場合によっては一人の役者が複数の立場を使い分けていたりするなど、ますます錯綜した実態が浮かび上がってきた。また成果の公表に関して、明治・大正期の文化史は近年様々な研究領域で改めて注目を集めているようであるが、視点の取り方によって見えてくるものがまったく違ってくるため、どのようなスタンスで得られた情報をまとめていくかは思った以上にセンシティブな問題であることも見えてきた。本研究は芸術実践における「素人のエートス」の可能性に着目するものであるが、場合によっては逆の方向性に作用してしまう危険もないではない(これは文化史研究で現在進行形で進んでいる議論である)。こうしたことから、理論的なバックボーン、情報を整序していく際の枠組みの設定にも相応の配慮を行う必要を感じ、拙速に成果を公表することを一部控えた部分がある。さらに、年度末の感染症流行の影響はやはり避けられなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間を延長したが、限られた時間の中で成果を何らかの形にしなければならない現況の変わりはない。この観点から、理論的基盤の整備を急ぎつつ議論を一時的にもせよ帰着させるポイントを定めねばならない。拙速は避けながらも、議論の方向性を早期に定める。次年度の課題は何と言っても成果の公表である。学会等の催しが激減しており顔を付き合わせてのやりとりが憚られる状況であるので、成果発表の場を確保すること自体が困難であるが、論文執筆を中心に様々な機会を捉えて成果を共有可能な形に外化していくことにしたい。得られた情報をすべて、またあらゆる学問領域にむけて語る総花的な議論は避け、事例を限って、しかし議論の広がりを失わない形での成果公表を心がける。
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Causes of Carryover |
調査および研究成果の公表に係る経費(物品費、人件費・謝金)の支出が予定より少なかった。文献などの資料がオンラインで閲覧できるものが多くなってきており、複写等に係る経費が抑えられた部分もあるが、入手困難な資料があったことや面談での調査を一部断念したこと、また校務との関係で資料の手配が円滑に行えなかった部分があること、年度末の不測の事態において成果公表を控えた部分があったことなども影響している。成果を公表する際の理論的基盤の確立・先行研究の把握・消化に手間取った部分もあるので、この点については年度の早い段階で必要な資料(先行研究の成果やそれのまとまったもの)を手配し作業を急ぐ。残りは主として資料の保存や成果の公表にあてていく計画で、年度半ば頃までに執行することを見込んでいる。
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Research Products
(6 results)