2020 Fiscal Year Research-status Report
伝統音楽の教授法・学習法とその変化~明治・大正期能楽を中心として
Project/Area Number |
17K17745
|
Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
玉村 恭 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (50575909)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 能楽 / 伝統芸能・伝統音楽 / 教授法 / 学習法 / 素人 / アマチュア |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は大別して二つの作業を行った。一つはこれまでの調査で得られた情報・資料を集約し、一定の体系のもとに整序することである。個々の事象について事実レベルで実証・確定すること、能楽享受の実態について量的に測定することは、事柄の性質上非常に困難であることが前年度までの研究で明らかになっているので、この部分については全体の傾向をいわば俯瞰的に把握することにとどめ、むしろ「現場の空気」を把捉し、往時の「稽古」の質的な側面を現象学的に記述することに精力を傾注した。明治・大正期の雑誌記事を中心とする文献資料を中心に、とりわけ専門の演者でない立場からの発言に注目し、歴史の「表舞台」に前景化しにくい側面の実態を示す記述を拾い上げ、そこから見えてくる近代初期の能楽享受の実態を分析した。もう一つは、こちらが作業としては中軸となるべきものであったが、そのようにして得られた成果をまとめ、論文ないし口頭発表の形で公表することである。論文二篇、書評論文一篇、著書二篇の執筆、数度の学会での口頭発表を通じて、それぞれの学会等で通用の論脈に引き寄せつつ、専門外の立場の人々による「稽古」を通じた芸術実践の活動が、近代能楽史・文化史において大きな、また特異な仕方での作用を持っていたことを論じた。おおむね計画通りに成果発表を行うことができたが、他方で、次項に述べる不測の事態の影響で、所期したとおりには進まなかった部分もある。この点については、研究期間を延長して不足を補い、研究の精度をさらに高めることとしたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前項で述べたように成果発表をおおむね所期したとおりに行うことができたが、一部、次に述べる事情から公表を見送った部分がある。前年度までの研究で、地方における能楽享受の実態とその歴史を調べることが、近代初期の動向を把握することにつながるらしいことが見えてきた。この点に関する調査は前年度から着手しており、都市部の外で能楽文化を支えてきた人々の動向に関するフィールド調査等を行って分析の素材が一定量集まりはしたものの、文献調査による裏付けを十分には得ることができなかった。文献資料を所蔵する機関を訪ねて資料を閲覧する計画であったのだが、新型ウイルス感染症の流行が終息の気配を見せずに県境を越えての移動が憚られる状況が続き、また研究機関も門戸を閉ざしたままのところが多く調査を行うことができなかった。日常業務も感染症対策で多忙を極め、代替の調査活動を行うことも困難で、この面での成果公表は見合わせることとせざるを得なかった。論じるための素材はある程度あるので、それを公表可能な形に「加工」すること、論点の整理・見直しと議論の道筋の整序が次年度の第一の課題となる。
|
Strategy for Future Research Activity |
再度の研究期間延長であり、何より議論をまとめること、成果を公表することが次年度の課題である。前項に述べた論点整理・見直しと議論の筋道の整序を行った上で、最終年度であること、また資料を所持する機関を直接訪れることが難しい状況が続く見通しであることを踏まえ、研究の重心を調査関連の活動に置くことは避け、成果の具体化とその公表に重心を置く。学会や研究会等の場で、移動や対面を伴わずに成果を発表し批判を受けることは可能になってきているので、様々な場を捉えて社会への還元を試みたい。また論文の執筆等により、成果を広く社会一般に共有可能な形に整形し議論をまとめる。
|
Causes of Carryover |
前記したように、感染症流行の影響で場所の移動や対面でのやり取りを伴う研究活動がほとんど行えなかった。このため、前年同様調査および成果の公表に係る経費(物品費、旅費、人件費・謝金)の支出が予定より少なかった。またデータの保存・整理についても作業を完了していないため、部分的に経費が未支出となった。学会等のオンライン化により支出を抑制できた(今後も抑制できる)という側面もなくはないものの、必要なものは必要なものとして支出し、研究の精度が下がらないよう注意する必要がある。資料の補充等の調査についてはできるだけ年度の早い段階で作業を完了し、時間・経費ともに成果の公表、資料の保存等に重心を置いて執行していく予定である。
|
Research Products
(7 results)