2018 Fiscal Year Research-status Report
「奴隷的拘束からの自由」の憲法上の意義に関する比較法的研究
Project/Area Number |
17K18181
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小池 洋平 早稲田大学, 社会科学総合学術院(先端社会科学研究所), その他(招聘研究員) (50779121)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 奴隷的拘束からの自由 / アメリカ合衆国憲法修正第13条 / 反奴隷制論 / 奴隷制擁護論 / アメリカ立憲主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度はアメリカ合衆国憲法修正第13条制定時の連邦議会において,解放奴隷のためにいかなる連邦法が準備されていたのかを整理し,そして,修正第13条の意義とそれら連邦法の理念的関係性を検討した。 具体的に主たる検討素材としたのは,第38回連邦議会で成立したいわゆる「解放民局法」(1865年3月成立)である。同法の審議は1864年2月から本格化しており,修正第13条審議と時期的に重なるものであり,ここには奴隷制廃止後の解放奴隷の取り扱いに関する構想が含まれている。 この連邦法の審議録を分析した結果,特に,奴隷主から解放されることによって「ヘルプ・レス」な状態に置かれてしまうという問題を巡り,いかなる支援が必要であり,連邦政府として支援できるのはどの部分までなのかが論点となっていたことを確認した。そして,修正第13条制定支持派は必要な支援の一つとして「働く機会」と「合理的な賃金」の保障を構想していたことも確認できた。これは修正第13条審議において引き合いに出されていた「労働の成果の享受」と連関する構想であると位置付けることができる。 もっとも,修正第13条制定反対派と修正第13条制定支持派との間だけではなく,後者内部においても解放奴隷の人間観に関する複雑な対立が存在していたことも確認できた。この複雑な対立が解放奴隷の「合衆国市民化」に向けた政策形成にも影響と与えている可能性も明らかにすることができた。 上記の研究成果は2018年10月に行われた研究会にて報告し,現在は,そこでの指摘を踏まえた形で論文としてとりまとめて公表する準備をしている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点において,アメリカ憲法史における「奴隷的拘束からの自由」の意義を明らかにするという本研究課題の目標につき,合衆国憲法修正第13条を素材とした分析はおおむね順調に進展している。 2018年度は修正第13条に関する分析に加えて,上記概要のように,関連する連邦法の審議録を入手し,論点整理が完了し,各論点ごとの分析に着手することができている。また,この分析を進めるなかで,解放民局の設置をはじめとする具体的な政策それ自体と修正第13条の連関性を検討する必要性も浮上しているが,この検討にも着手できている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度は,合衆国憲法修正第13条制定時において,連邦議会が解放奴隷に対していかなる支援を構想していたのかをとりまとめ,修正第13条の意義との連関を明らかにする。そして,その成果を研究論文として公表する。 その上で,本研究課題の意義をさらに深めるために,修正第13条成立後の再建期アメリカにおける立憲主義の土台となった憲法思想の解明を射程に入れた研究全体の総括を行い,公表したい。
|
Causes of Carryover |
2018年10月に行った学会発表において,1865年解放民局法に関する研究成果を報告したところ,アメリカ合衆国憲法修正第13条の意義について,特にその現代的応用性を高めるために関連する判例を検討する必要性が生じた。 そのため,本研究課題全体の成果をより深めるために,当初の研究計画で想定していた期間を延長し,オンラインデータベース及び連邦議会図書館で資料を収集・分析したい。オンラインデータベースで入手できる資料の大部分は入手済みであり,次年度使用額は2019年夏に連邦議会図書館で資料を収集するために使用する予定である。
|