2017 Fiscal Year Research-status Report
クラウドソーシングを用いたビジネス文書のわかりやすさの言語学的研究
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17K18504
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
石黒 圭 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 日本語教育研究領域, 教授 (40313449)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
庵 功雄 一橋大学, 国際教育センター, 教授 (70283702)
岩田 一成 聖心女子大学, 文学部, 准教授 (70509067)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | ビジネス文書 / 専門日本語教育 / テレワーク / クラウドソーシング / 言語コーパス / リーダビリティ / レジビリティ / ポライトネス |
Outline of Annual Research Achievements |
インターネット上で業務の受発注を行うクラウドソーシングの広がりにより、これまで「顔の見える相手」に口頭で行っていた指示を、「顔の見えない相手」に文書で行わなければならない新たな状況が生まれている。クラウドソーシングで業務を発注する場合、受注希望者を集める必要があるが、受注希望者の多寡は、発注業務の専門性や報酬の高低、業務期間の長短といった諸条件のみならず、発注文書の日本語の質によって大きく左右される。また、発注者と受注者のメールのやり取りが業務成果の質に直結するともいえ、文書作成能力がWeb時代における喫緊の課題となっている。そこで、本研究は、クラウドソーシングの発注文書とやり取り文書を量的・質的に分析することで、わかりやすさをはじめとする質の高いビジネス文書の特徴を言語学的に明らかにすることを目的とする。 2017年度は、まず、クラウドワークス社の協力を得て、3万件規模の発注文書データを収集し、量的な分析を行うための研究基盤として発注文書データベースを構築した。また、発注者と受注者のやり取りを質的に分析するために、クラウドワークス社のサイトで実際に業務を発注し、発注者と受注者のやり取り文書を収集した。さらに、発注業務終了後に、①発注者が受注者をどう見ているか、②発注者が発注という業務をどう見ているかの2点について発注者2名にインタビューを行うとともに、受注者40名にたいしても、受注者が発注者をどのように評価しているかをアンケートによって調査した。 現在は、表記面、情報面、構成面、自己開示面、他者配慮面の5つの観点から、上記の量的・質的データの分析に着手している。また、研究成果発信のために、2018年7月開催の日本テレワーク学会にパネル発表を申し込んで採択され、その準備を行う一方、2019年度に研究成果を集めた論文集を刊行する企画を立て、出版社の許諾を得たところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度の計画は、発注文書データを収集し、量的な分析を行うための研究基盤を構築することであった。しかし、パイロットデータを構築した段階で、数値的な条件面と言語的な表現面の兼ね合いを詳細に検討してからデータ量を増やした方が、大規模データの決定木が作りやすいことが明らかとなった。そこで、すべてのデータベースを構築する前に、先にデータ分析に取りかかることとなり、そのおかげで研究成果の発信準備も予定より早まっている。一方、すべてのデータベースを整えるのは2018年度に入ってからになったため、両者の進行のバランスを勘案すると、進捗状況はおおむね予定どおりであると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、パイロットデータを用いて、数値的な条件面と言語的な表現面の兼ね合いを詳細に検討し、決定木を作成し、そのうえで、10万件規模の発注文書データベースを構築する。表記面、情報面、構成面、自己開示面、他者配慮面の5つの観点からの発注文書データの分析を進めるとともに、発注文書に対する閲覧数や応募件数といった受注者からの評価を照らし合わせて、わかりやすい発注文書を書くための言語学的な要因を明らかにする前提を整える。 また、量的な発注文書データ以外にも、初年度に採取した発注者のインタビューデータ、受注者の応募文書、発注者と受注者のやり取り文書を質的に分析する。これにより、発注者がどのような観点で受注者を選び、評価しているのかを探るとともに、受注者から高い評価を得るための応募文書とやり取り文書がどのようなものであるかを分析することで、受注者がビジネス文書を書く際に注意すべき点を明らかにする。一方、受注者のアンケート結果から、受注者が発注者をどう評価しているかを知ることにより、発注文書の改善方法についても考察を進める。 以上のように、発注文書、応募文書、やり取り文書、インタビューデータ、アンケート結果という5種のデータを整え、相手に受け入れられるビジネス文書を総合的、実証的に検討し、わかりやすいビジネス文書を書くための改善方法を提案する。 研究成果発信の予定としては、2018年7月に行われる日本テレワーク学会でのパネル発表を控えており、2019年度に論文集の刊行を予定している。その二つを柱に成果発信を積極的に行う。このほかにも、日本語教育分野への貢献も視野に入れ、国内外の日本語学習者がビジネス文書を読み書きする際に必要となる語彙や文型のリストを公開し、ビジネス日本語教育に資することも目指す。
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Causes of Carryover |
当初は、2017年度にすべての発注文書データを収集し、量的な分析を行うための研究基盤となるデータベースを構築し終えてから、2018年度に分析を開始する予定であった。しかし、数値的な条件面と言語的な表現面の兼ね合いを詳細に検討してからデータ量を増やした方が、決定木が作りやすいことが明らかになり、2017年度はパイロットデータの分析を優先して行うこととした。そのため、10万件規模のデータ構築の予算は2018年度に持ち越すことになった。
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