2017 Fiscal Year Research-status Report
Interdisciplinary study for the protection of human rights of demented people
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17K18539
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中塚 晶博 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 准教授 (20597801)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
粟屋 剛 岡山商科大学, 法学部, 教授 (20151194)
目黒 謙一 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授 (90239559)
山本 克司 修文大学, 健康栄養学部, 教授 (50389201)
和田 泰三 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 連携准教授 (90378646)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | 認知症 / 人権 / 医療倫理 / 意思能力 / 利益衡量 / 手続き保障 |
Outline of Annual Research Achievements |
「患者本人による自己決定」の原則は現在、医療行為が倫理的・法的に正当化されるための要件としてほぼ確立されたものとなっているが、現代における認知症患者の増加は、上記の原則の形骸化を日常化させる要因となりつつある。そこでは、以下のような問題を避けることが出来ない:(1)患者の処遇に関して、家族の専断に歯止めが利かなくなる恐れがあること、(2)本人と家族の間に生じる事実上の利益相反の解決が困難であること、(3)家族は患者の保護者としての役割を強いられる可能性が高く、それはしばしば過酷な負担となること、(5)複数の親族間で意見が分かれた場合、後日のトラブルに関して医師は不測のリスクを負うことになること。上記のテーマを議論するため、医師、法学者、介護専門家等の参加による科研プロジェクトの全体会議を兼ねた公開シンポジウム「認知症の時代の医療倫理学」を実施した(2018年1月30日、東北大学)。このシンポジウムにおける講演演題と演者は以下の通りである。「認知症患者のケアをめぐる倫理的ジレンマについて」(中塚晶博・東北大学)、「認知症高齢者の自己決定権:法的視点からの検討」 (山本克司・修文大学)、「認知症終末期にむけたAdvance Care Planningの試み」 (和田泰三・京都大学)、「認知症患者の触法行為について」(中嶋富美子・東北大学)、「認知症患者の看取りの問題」(東海林美和子・東北大学)。以上のシンポジウムを通じて、「認知症者の人権と公共の利益をいかに両立させるか」および「介護を必要とする者とその家族の人権をいかに調和させるか」という問題について、具体的事例に立脚しつつ、医療者・介護者の価値判断、および法的観点からの分析が行われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
医師、法学者、倫理学者、介護関連専門家、一般市民らの参加する研究会や学会、シンポジウムを通じて、以下の成果が得られた。(1)認知症者の問題行動(徘徊や、いわゆる触法行為等)は、それらを捉える観点によって医学的、社会的、倫理的、法的に、それぞれ固有の意味を有しており、従って、問題の正しい理解のためには、これらの多面的な意味を専門領域横断的に認識し、かつ議論することが必要であることが明らかとなった。(2)憲法学における「人権の享有主体」という概念は「合理的自然人」を前提としたものであり、認知症者の人権を実現する上では充分に機能しないこと、これを補完する上で「人権の行使主体性」という概念の有効性が検討に値すること、「認知症者の知る権利」(憲法21条)が、「認知症者による人権の行使」を保障するための憲法上の根拠となりうることが、憲法学者・山本克司によって示された。(3)患者本人にとっての家族は単なる「代理人」ではなく、独立の利害を有する「当事者」としての性質を有していること、認知症診療の場面においては、本人と家族、医師の間で「三者関係」が成立していると捉える余地があり、これは医師等を「仲裁人」とする「仲裁関係」に類似した関係として捉えうること、当事者の手続き保障を実現することが、当事者の意思表示と一致しない処置(能力の問題だけでなく、親族間の意見の不一致も含め)を正当化する根拠となりうるについて、議論が行われた。
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Strategy for Future Research Activity |
患者の残存能力に配慮した手続き保障と意思表示の有効要件について、その具体的内容を検討する。例えば、ある特定の意思表示を行うために充分な判断材料を短時間(1分程度)で理解できる形で要約して患者に示し、それを忘れないうちに下した決断は、決断したこと自体は忘れることになったとしても、有効な意思表示として取り扱う余地があるかも知れない。 認知症における「事前指示書」と「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」の運用について検討する。「事前指示」とは、将来本当に認知症になるかどうか分からない段階で行われた意思表示によって、実際に認知症になった段階の自分自身を拘束しようとする行為に他ならない一方、ACPは「終末期の癌」等、ある程度死期が迫っており、その開始時点で能力に問題のない患者を対象として設計された手法であることを踏まえ、それらを認知症において運用する場合の医学的、法的、倫理的な検討を加える。 認知症患者にみられるとされる「行動異常」を、患者本人が行動の自由を行使することの利益と、介護者をはじめとする第三者の利益ないし公益との衝突の場面として捉え、これを医学的・倫理的・法的な観点から検討し、「行動異常」という概念の再構成を図る。 上記のテーマに関し、臨床事例を収集する一方、倫理学者、医師、法学者、介護専門家等の参加による研究会を実施し、学会やシンポジウムでの発表や意見交換を行う。
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Causes of Carryover |
プロジェクト2年目以降における調査費用、学会参加費用、会議費等へ充当する必要があると考え、1年めのプロジェクトに支障がない範囲で、次年度への繰り越しを図ることとした。
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Research Products
(12 results)