2017 Fiscal Year Research-status Report
水陸境界環境の物質循環を解読するアミノ酸安定窒素同位体比解析法の創出
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17K18796
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
力石 嘉人 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (50455490)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2019-03-31
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Keywords | アミノ酸 / メチオニン / 水陸境界環境 / 安定同位体比 / 食物連鎖 / エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,生体試料中に微量で含まれているメチオニン(必須アミノ酸の1つ)の安定窒素同位体比の測定に関して,異なる2つの性質のGCカラムを連結する「カラムカップリング法」と定義できるような新しい分析法の開発と,その応用・実証研究を行うことである。 平成29年度は,分析法の開発を行った。メチオニンの安定窒素同位体比の測定は,有機物供給源が混合する水陸境界環境(そして,その場の生態系)において,窒素循環に関わる重要な情報として,有機物資源の水陸混合率(藻類%,陸上植物%),生物の栄養段階,生態系構造,そして,アミノ酸の代謝量(エネルギー獲得のための分解量)などを定量的に見積ることを可能にすると考えられている。しかし,現行の測定条件では,GCクロマトグラム上で夾雑物との十分な分離が全く期待できず,同位体比の測定が不可能であった。そこで本研究では,これまでの研究で安定窒素同位体比分析の信頼性が確認済みであるAgilent社製の微極性カラム: HP-5MS,中極性カラム:DB35ms,2つの高極性カラム:DB23,HP-INNOWAXを用い,15m+30m, 30m+30m,30m+15mの組み合わせで「カラムカップリング」を検討し,メチオニン分析の最適条件を求めた。その結果, HP-INNOWAX (15m) + HP-5MS (30m)の組み合わせを用いることで,メチオニンが,クロマトグラム上で,夾雑物や他のアミノ酸から,十分に分離できることを明らかにした。また,メチオニンの標準試薬を用いた検証を行い,求めた最適条件において安定同位体比の測定に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,平成29年度に,「カラムカップリング法」を用いた分析法の開発,平成30年度に,開発した手法の実施料での実証研究を計画していた。 当初,本研究では,4種類の30mのGCカラムの組み合わせとして,計12通りの検討を計画していた。しかし,実際には,15m+30m, 30m+30m 30m+15mと,長さの異なるカラムの組み合わせを検討しなければならず,当初の計画よりも,かなり多い組み合わせの検討が必要であった。しかし,最終的には,HP-INNOWAX (15m) + HP-5MS (30m)の組み合わせで,メチオニンが,十分に分離できる条件を明らかにすることに成功した。このように,本研究は,「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は,平成29年度に開発した測定法を論文にまとめて発表する予定である。また同時に,開発した測定法を,代表的なモデルケースとして,(1) 実験室で飼育した生物,および(2) 研究協力者である石川尚人博士(申請時:スイス・チューリッヒ工科大学・PD研究員,現在:国立研究開発法人海洋研究開発機構・研究員)がIshikawa et al. (2014, Oecologia 175, 911-922)で,すでにグルタミン酸やフェニルアラニンの安定窒素同位体比を報告している「河川の生物群」,に適用し,本研究が提案する方法論の有効性を実証する予定である。 これらの生物群(動物プランクトン,貝類,甲殻類,昆虫,魚)に含まれるメチオニンの安定窒素同位体比が測定できれば,(1) メチオニンとフェニルアラニンの同位体比の差から,生態系への「藻類・陸上植物由来の有機物の混合比」を見積ることができる,(2) その混合比を用いて,図1のβを再定義することで,各々の生物の栄養段階が見積もられ,生態系構造を正確に描くことができる,(3) 生物の栄養段階と生態系構造がわかれば,生態系の食物連鎖におけるアミノ酸の代謝フラックスを計算することができる,と期待している。 その達成は,地球化学・生態学研究において,水陸境界における有機的な物質循環のフラックスの見積もりに,世界で初めて信頼できる解を与えることを意味し,本方法論の威力を国内外に証明する最初の結果になると期待している。
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